2015年のアジアクロスカントリーラリー(AXCR)参戦にあたり、三菱アウトランダーPHEVはマシン全域にわたり性能向上を果たしたが、新たなる課題にも直面した。それはPHEVシステムの熱問題である。
AXCR仕様のアウトランダーPHEVは、モーター、バッテリー、ジェネレーターなど基幹システムに関してすべて量産車のパーツの延長線上にある部品を使っている。冷却用のラジエターもレース専用品を使わず、あえて量産車用のパーツを使うというこだわりようだ。これはラリーをもっともハードな開発試験の場と考えている三菱開発陣の意向によるもので、ラリー中にトラブルや問題が出るということは、逆にいえば最高の試験サンプルが得られるということでもある。
今回のAXCRのコースは山岳地が中心となり、アップ&ダウンが激しく、降雨により路面ミューが極端に低い泥濘地が多かった。そのため登りでは大きな駆動力を必要とし、本格クロカンマシンがデフを完全にロックした状態で低速ギヤのアクセル全開状態でギリギリ上りきれるような急峻も多かった。
アウトランダーPHEVは前輪をエンジンとモーターで、後輪を別途モーターのみで駆動する応答遅れのない駆動コントロールが美点。一般道や普通のオフロードでは極めて有効な4WDシステムである。そして今回、ラリー専用の「攻めたチューニング」によりトルク&パワーは大幅に向上したが、その分だけ負荷と発熱量が増え、特にバッテリーの温度上昇が顕著だった。そうなると安全性確保のためシステムがセーフモードに入り、パワーがダウン。温度を下げるために青木は何度かマシンを止めることもあった。前回、前々回のコースではそのようなことはほとんどなかったが、今回は厳しい走行条件が重なり想定外の大きな負荷がかかったのだ。
三菱のエンジニアによれば、温度上昇に関しては事前に想定テストを行い、かなりのマージンをとっていたというが、強烈な上り坂が多かったジャングルの道はその予想を遥かに超える厳しさだった。開発試験ではまず遭遇しないような悪条件での走行に青木は苦労したが、それでも連日エンジニアと解決策を模索しながら競技を続行。問題は徐々に解決方向に向かい、それと同時に貴重な開発データが蓄積されていった。そして、比較的フラットな走行条件となった競技最終日には、青木が全体の3番手タイムをマーク。良い形でラリーを締めくくり、笑顔でチェンマイでのセレモニアルフィニッシュを迎えた。
コースの途中では深い河を渡るシーンもあり、エレクトリックカーの対応力が問われた。しかしアウトランダーPHEVは、ドライバーの足もとが水没するほど深い河を渡ってもPHEVのシステムにはまったく問題は起こらず、量産車の段階で十分に確保されていたという耐水性の高さが図らずも証明された。これは、PHEVの安全性という側面に関して、非常にポジティブな結果といえるだろう。
アウトランダーPHEVによるAXCR参戦は今回でひと区切りとなるが、今回得られたデータをフィードバックし各種対策を施したほぼ同仕様のマシンが、10月にポルトガルで開催されるFIAクロスカントリーラリー「バハ・ポルレグレ500」に出場する。AXCRとは路面コンディションが大きく異なるラリーでステアリングを握るのは、三菱の社員でもある増岡浩。ここ数年はEVによるパイクスピークへの参戦が注目されていた増岡だが、久々に「本業」ともいえるクロスカントリーラリーに出場することになり、その活躍が期待される。さらなる改良が施されたアウトランダーPHEVと増岡が一体どのような走りを見せてくれるのか、非常に楽しみだ。
