危機にさらされているのはWECだけではない。当初は合併の道を模索していたというDTM、そしてWTCC世界ツーリングカー選手権についても、先行きが不透明になってきたのだ。
DTMは2018年限りでメルセデスを失い、現状では2019年からアウディとBMWによる一騎打ちの構図になる。WTCCについてはシトロエンとラーダが2016年限りでワークス参戦を終了しており、現状はボルボとホンダの争いになっている。
シリーズに近い有力な情報源によれば、WTCCは2017年初め、2018年シーズンを開催せず、2019年にFIAが主導する“クラス1”を主体としてDTMと合体する道を模索していたという。
しかしDTMを主宰するITR.e.Vのゲルハルト・ベルガー代表はWTCCと合併する可能性を否定し、日本のスーパーGTと関係を強化する方向へ動いている。
これを裏付けるかのようにDTMニュルブルクリンク戦期間中の9月9日、シリーズに参戦するBMWのイェンス・マルカルトは「我々はいわゆる『クラス1』規定の導入をサポートし、DTMマシンにとって非常に効率的で、パワフルな4気筒ターボエンジンの導入と、空力性能を下げる準備を整えている」というコメントを発表している。
「これによってスタンダード化された世界的なレギュレーションへの扉を開き、たとえば日本のスーパーGT車両のような、同じ技術基盤のマシンとともに走ることを可能にする」
「このコンセプトがDTMの将来を確保し、国際的に開かれた魅力的なプラットフォームを提供するだろう。我々は他のマニュファクチャラーが、DTMに関心を示すのであれば、それを歓迎したい」
この声明がスーパーGT500クラスに参戦するレクサス/トヨタ、ニッサンを意識したものであることは間違いなく、彼らをシリーズに呼び込みたいという意向も垣間見える。ただし、唯一ミッドシップを採用しているホンダについては、現時点で迎え入れるのは難しいようだ。
DTM側の動きが、WTCCの将来にどう影響するかは定かではないが、先行きが不透明なことに変わりはない。DTMについては日本メーカーが参戦しなかった場合、アルファロメオやボルボが参戦を望んでいるという噂を現実のものにしなければ、WTCCと同じく、厳しい未来に直面することになる。
この2シリーズと比べれば、LMP2とLM-GTEプロクラスが活気を帯びているWECは安泰と言える。ただしLMP1に関してはトヨタとプジョーが参戦しない限りプライベーターが争うカテゴリになってしまうのだが。
彼らが直面している問題を解決するには何カ月も時間が必要となり、2018年初頭まで解決することはないと思われ、一連の騒動は長引くことになりそうだ。
筆者:サム・コリンズ
イギリスでモータースポーツファン、レース業界関係者に広く読まれている『レースカー・エンジニアリング』誌のテクニカル担当ライター兼副編集長。F1からハコ車まで幅広い知見をもち、独特のレーシングカーには目がない。スーパーGT300クラスのJAF-GTカーを見るためだけに日本に訪れることもしばしば。
