更新日: 2019.09.06 13:46
Mercedes-AMG Team GOOD SMILE 2019鈴鹿10時間 レースレポート
GOODSMILE RACING & Team UKYO RACE REPORT 6
2019 第48回サマーエンデュランス「BH オークション SMBC 鈴鹿10時間耐久レース」
会期:2019年8月23日(金)〜25日(日)
場所:鈴鹿サーキット(三重県)
天候:23日(金)雨 24日(土)晴 25日(日)晴
観客:5万1000人(3日間)
予選:6位
決勝:10位
2018年にGT3カーの世界一決定戦を謳って初開催された鈴鹿10時間耐久レース。GOODSMILE RACING & TeamUKYOは、2018年のこのレースにサードドライバーとして小林可夢偉選手を迎え、『Mercedes-AMG Team GOOD SMILE』として参戦した。結果は日本チーム最上位となる総合5位、アジア人ドライバーが半分以上を占めるチームが対象となるアジア賞では優勝という成績を残した。レース終盤の片岡選手の走りは、サーキット中の観客を沸かせ、この大会のハイライトとして語り継がれた。
そして2019年8月、 Mercedes-AMG Team GOOD SMILEは昨年を超える結果を目標に、二度目の鈴鹿10時間耐久レースに挑んだ。ドライバーは今季も谷口信輝選手、片岡龍也選手、そして小林可夢偉選手の3人だ。
マシンはもちろんMercedes-AMG GT3だ。2017年のスパ24時間レース以来使用している白と赤の日の丸カラーをベースにした2019年鈴鹿10時間レース用特別カラーリングを施し、鈴鹿サーキットに登場した。8月22日には、日本では過去最大規模で行われた公道レーシングカーパレード『鈴鹿モータースポーツフェスティバル』に参加して、沿道に連なる観客を楽しませた。
【8月23日金曜日】
レースウィーク走行初日は朝から雨模様。ブロンズテストセッションに続いて10時から行われた2時間のプラクティスセッションはフルウエット。Mercedes-AMG Team GOOD SMILEの00号車もレインタイヤで周回を重ねたが、土日の天候は回復することが予想されていたため、バランス確認など調整作業に終始した。16周をこなしたこのセッションでは、片岡龍也選手から谷口信輝選手、そして最後に小林可夢偉選手の順で走行した。片岡選手搭乗中に、路面が乾いていたタイミングで記録した2分17秒082がこのセッションでのチームベストとなり、23番手で終えた。
続いて14時10分からのセッションも変わらずウエットコンディション。可夢偉選手、谷口選手、最後に片岡選手の順で走行した。このセッションでは可夢偉選手の2分14秒442がベストで9番手を記録した。
最後に18時30分からスタートするナイトプラクティスも雨でスリックタイヤは使えない。しかしレギュレーション上このセッションでは出走ドライバー全員が1周回以上を走る義務があったため、片岡選手、谷口選手、そして可夢偉選手の順でレインタイヤで1周ずつ周回。最後は片岡選手が2周をこなし、2分17秒009の20番手でセッションを終えた。
この日は終日雨が降っており、結局スリックタイヤでのテストが全くできなかった。
【8月24日土曜日】
夜中も降り続いた雨は早朝に上がり、朝から晴れ間が広がった。前日から一転、予選日は誰もが待ち望んだドライコンディションとなった。
この日は9時15分からはじまる1時間のフリープラクティスの後、予選が行われる。前日は雨でスリックタイヤでのテストを一切行っていない為、予選に向けてのセッティングをこのセッションで完了しなくてはならない。
まずは片岡選手が乗りこみコースインする。トラックコンディションが整わないせいもあってフィーリングが悪い。すぐにピットインして、セッティングを変えてコースに戻るが、運悪く開始17分に赤旗中断となってしまった。
時間内にセッティングを完了する事はもちろん必須だが、3人のドライバーそれぞれがドライで走っておくことも重要だ。その為、片岡選手が十分に走れたとは言えない中で谷口選手に交代するが、数周回ったところでまたもや赤旗中断に。そのタイミングで、今度は可夢偉選手に交代してセッティングを続ける。可夢偉選手は試行錯誤の結果2分03秒491のベストタイムを記録し、予選に向けての方向性を見つけることができた。
予選は2つのパートに分かれている。まずは13時からの予選で、3人のドライバーそれぞれが15分間ずつタイムアタックを行い、それぞれのベストタイムを合算したタイムで総合順位を決める。そのうち上位20台は、17時35分からのポールシュートアウトと呼ばれる2次予選に進出し、最終的なスターティンググリッドを決める。
最初に予選に挑んだのは谷口選手。まずは中古タイヤでコースインし、すぐにピットインしてニュータイヤに履き替え、再度コースインしてアタックラップに入る作戦だったが、そのニュータイヤでのアタック中に不運にもコース上でアクシデントが発生し、赤旗中断となってしまう。ここまでのタイムでは20位に届いていなかったのだが、そこはベテラン谷口選手、セッション再開後チェッカー1分前にギリギリ20位に食い込む2分03秒429を叩き出した。
続いて片岡選手。谷口選手からのフィードバックをもとに微調整を施したマシンを駆って、谷口選手と同様に一度コースインした後にピットイン、ニュータイヤに履き替えてアタックする。トラックコンディションも整ってきており、5周目には2分02秒715をマーク。翌周、再びアタックするもタイムを縮めるには至らなかったが、確実な手ごたえを得てピットに戻った。最終的な順位は19位だった。
最後は可夢偉選手。河野エンジニアは、可夢偉選手の好みに合わせてさらにセッティングを微調整する。先の二人のドライバーと同様に一度ピットインしてニュータイヤでアタックするが、5周目にマークしたベストタイムは2分02秒873と片岡選手のタイムからややダウン。直前の調整が裏目に出てしまい、可夢偉選手としては満足できるタイムではなかったが、それでも3人の合計は6分09秒017となり、18番手でポールシュートアウト進出を果たした。
17時35分からのポールシュートアウトは、事前にアタッカーとして届けられていた可夢偉選手が担当する。「ポールポジションを獲りたい」と語る可夢偉選手に河野エンジニアは「じゃあ、ギャンブルしますよ」とチームに宣言した。可夢偉選手からのヒヤリングを頼りにぶっつけ本番のセッティングで走るのだ。賭けが外れてもグリッドは3つ落ちるだけで失うものは少ない。チームは勝負に出た。
そして賭けは成功する。15分のセッション中にアタックできるチャンスは限られている。コースに出た可夢偉選手はすぐに好フィーリングを感じ取ると、最初のアタックで見事に2分01秒024という好タイムをマークして2番手に踊り出た。
その後ライバル達のタイム更新により6番手まで順位を下げるが、それでもAMG勢最上位グリッドをキープした。昨年は21位スタートと後方グリッドからの追い上げだったが、今年は世界の強豪チームに交じっての3列目グリッドからのスタートとなった。
予選後可夢偉選手は、決勝レースで強力なライバル達に振り落とされない為に少しでも軽量化を図るべく、クールスーツを外すことをチームに提案した。酷暑が予想される中、クールスーツ無しで走行するのはドライバーの体に大きな負担をかける。しかしおよそ20kgの軽量化になるこの提案を、谷口選手、片岡選手とも承諾した。スティントを終えたドライバーの熱中症対策としてピット裏に大型のプールが用意される事になった。
【8月25日(日)】
決勝日は早朝から晴天に恵まれ、絶好のレース日和となった。8時05分から行われたウォームアップでは、スタートドライバーを務める片岡選手が7周を走り、2分03秒873を記録、決勝に向けたフィーリングを確認した。
スタートセレモニーを経て、迎えた10時のスタート。片岡選手は、1周目に777号車フェラーリをかわして5番手に躍り出る。前を走るのは、昨年終盤に順位を争った107号車ベントレーだ。トップを走る42号車BMWとも大きな差はつかず、まさにチームが目指してきた“世界と戦う”シーンを具現化する。
最初のスティントは大きなアクシデントなくレースが進み、片岡選手は5番手のまま54分間を走りきりピットイン、谷口選手に交代する。そしてこのピットストップで107号車ベントレーの前に出ることに成功し、4番手に浮上する。さらに40周目に2番手の34号車BMWがアクシデントでストップすると、表彰台圏内の3番手にまで浮上した。
好調のまま谷口選手は54周目まで走りピットイン。可夢偉選手に交代する。ペースが速い125号車アウディにはかわされ4番手に。
このスティントのなか、コース上のアクシデントにより、一度目のフルコースイエローが出た。このタイミングでピットインすれば、タイムを稼ぐことができる一方、残りのスティントの時間管理が厳しくなる。
チームはここで可夢偉選手を呼び戻す策を選択、ピット作業を行う。結局他の上位陣も同じ戦略を採った為に期待したようなポジションアップはできなかったが、可夢偉選手はその後1時間を安定して走り、合計1時間36分という長い走行時間を経て、ふたたび片岡選手にステアリングを託した。
この時、チームには一つの問題が発生していた。可夢偉選手のスティント中、上位陣のライバル達がペースアップしているにも関わらず、00号車だけがペースを上げられず、前のグループにジリジリと離され始めていたのだ。上昇する気温によるものなのか、タイヤの内圧によるものなのか……?ピットでは喧々諤々の議論が交わされているが、原因にたどり着けない。
気温が更に上昇するなか、片岡選手、そして続く谷口選手ともそれぞれ2回目のスティントを1時間03分ずつこなし、ふたたび可夢偉選手へバトンが渡った。しかし、ペースに優るライバルたちに追いつかれ、順位は少しずつダウンしており、この頃には6〜7番手あたりまで落ちていた。
暑さが緩みはじめた16時頃、コース上でアクシデントが発生し、再びフルコースイエローが導入された。このタイミングで、可夢偉選手はふたたびピットへ入る。これによりまたもや長いスティントとなったが、可夢偉選手はしっかりとこなした。途中で他車との接触があったが、マシンは無事で、レースへの影響は無かった。
終盤、サーキットに夕闇が迫るなか、片岡選手、谷口選手と繋ぐ。相変わらずペースアップできず、順位はじわじわと下がり続け、谷口選手のスティントではついに10位までポジションを落としていた。
そして、いよいよ最後のピットイン。最終スティントを委ねられた可夢偉選手はペースが上がらないマシンに鞭をうち、10位を守りつつゴールを目指す。すぐ後ろにはトップを走る25号車アウディが迫っていたが、なんとかトップと同一周回で最終ラップ直前まで持ちこたえた。しかしレース開始10時間を超えたまさにその時、ついに力尽きて25号車アウデイにパスされ、周回遅れとなってしまった。
今年も会場で配布されたサイリウムの光がグランドスタンドを埋め尽くす中、Mercedes-AMG Team GOOD SMILEはトップに1周遅れる274周を走りきって、総合10位でチェッカーを受けた。最後までライバルたちのペースには一歩及ばず、辛うじて守りきった10位だった。尚、副賞のSUPER GT賞では優勝、アジア賞は2位だった。ミスらしいミスも目立ったトラブルも無かったレースだっただけに、昨年より劣る順位でのゴールはチームには悔しい結果となった。
しかし前年もそうだったが、全車同一条件で全力を出し切って戦った結果は清々しく受け止められた。勝てなかった原因はライバルよりも力が足りなかったからである事にほかならない。目指すべき高みがある事は決して悪い事ではない。Mercedes-AMG Team GOODSMILEは、世界に追いつくために挑戦し続ける。
【チーム関係者コメント】
■ 安藝貴範代表
レース序盤、終盤をのぞき、気温が高いときやバトルが激しい時間帯にペースを上げることができませんでした。レース途中にあった接触が原因ではないと思うのですが、何しろ原因が分かりませんでした。ドライバーたちには競争力がない状態で走らせてしまったので、だいぶストレスを溜めさせてしまったと思います。予選で期待が高まりすぎましたね(苦笑)。でもその期待に応えるだけの力が足りてなかったということかもしれません。今回は全体的にAMG勢が苦戦していましたが、その中でもまだライバルとの差がありますね。スパはまたお金を貯めなければ行けませんが(苦笑)、このレースは伝統的に続いていく限り挑戦したいと思います。
■ 片山右京監督
残念ですね。予選がすごく良かったですし、スタート直後は片岡選手がポジションを上げ、ライバルの脱落があったにしろ表彰台を争う位置で戦えていましたから。でも、中盤以降はずっと苦しくなってしまった。ひとりが遅いならまだしも、全員が遅くなってましたからね。これがレースなので仕方がないですが、なぜレースペースが上がらなかったのかをしっかり原因を特定しなければいけません。ピレリタイヤの使い方ももちろんですが、耐久レースの戦い方も含めて、また勉強し直しですね。
■ 谷口信輝選手
予選では可夢偉選手がいいアタックをしてくれて、AMG最上位の6番手につけることができました。しかし、決勝レースが始まってみると、ワークス勢の強さを改めて思い知らされましたね。僕たちは今回、レースで明らかに速さがなかった。序盤こそ良かったのですが、気温が上がってからは全然ペースも上がらず、自分だけかと思いきやみんなそうだった。まわりの調子がいいときに僕たちはペースを上げられなかったので、その原因を突き詰めなければいけないと思います。また来年リベンジできるかは分かりませんが、今回も勝ったチームは素直にすごいと思いますし、自分たちのいる位置も改めて理解できた。負けて清々しいところはありますね。
■ 片岡龍也選手
今回は金曜に天候が悪く、土曜はフィーリングも悪いなかで始まりましたが、そこから立て直して、予選では可夢偉選手がスーパーアタックをみせてくれました。僕はスタートを務めましたが、正直「こんな前のグリッドからスタートで大変だ」とプレッシャーを感じていました。でもスタートしてみれば心配していたほどでもなく、序盤はけっこう期待ができるとすら思っていたんです。しかし気温が上がりだしてからは、上位グループでいちばん遅いペースになってしまいました。上位15台のなかでいちばん遅かったと思います。スタート位置が良かったから10位で済みましたが、去年のような後方からのスタート(前年は21番グリッドからスタート)だったら、そのまま埋もれて終わっていたでしょう。なぜなのかを見つけなければいけませんね。スカッとするところが無かったのは残念ですが、とは言っても10時間ものレースで無事に完走できた事、総合10位、アジア賞2位、SUPER GT賞1位を受けられた事は良かったですね。
■ 小林可夢偉選手
予選で6番手につけることができたのは良かったですね。ただ決勝レースは非常に厳しい展開になってしまいました。なんだかうまくいかなかくて、正直悔しいです。原因はまだ分かりませんがペースを全然上げられませんでした。AMG勢は全体的に苦しいレースでしたが、その中でも特にうまくいってなかった。上位に残ることができなかくて残念です。またチャンスがあればリベンジしたいと思いますし、しっかりとテストをしなければいけませんね。