ゆっくりとクルマを降りた福住仁嶺は、ヘルメットを脱ぐことなくARTA NSX-GTにもたれかかり、しばし微動だにしなかった。その福住の懐に勢いよく野尻智紀が飛び込み、若きチームメイトをかたく抱きしめた。
無邪気に喜ぶふたりの姿は、まるで甲子園を制した高校球児バッテリーのようだった。ヘルメットを脱ぎ去り、ブリヂストンのウイナーズキャップを被った福住はこぼれ落ちる涙を、野尻は笑顔を止めることができなかった。
待ちに待った今季初勝利。3回のポールポジション獲得でも登頂できなかった、ポディウムの最上段。ついに、いや、ようやくそのときが訪れた。