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MotoGP ニュース

投稿日: 2018.05.22 15:19
更新日: 2018.05.22 18:21

チームミライの電動版2ストマシンを目指した韋駄天X開発秘話。内に秘める二刀流の冷却システム

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MotoGP | チームミライの電動版2ストマシンを目指した韋駄天X開発秘話。内に秘める二刀流の冷却システム

「水冷化のアイデアとなったのは、ストーブの上のやかんでした。冬場にストーブの上に置いていた熱々のやかんを、水で冷やしたんです。そうしたらあっという間に温度が下がるじゃないですか。それを見て、やっぱりこれだ、と思ったんですよ。この熱をいくら風で冷まそうとしても時間がかかるけれど、水だったら一瞬。やっぱり水冷だ、と」

 急な変更だっただけに、さすがに周囲は驚いたようだ。

「(今年の)年明けにバイクを設計したエンジニアに電話をして、モーターを水冷化したいと言ったら『え! 無理ですよ!』と言っていましたけどね」

 開発秘話のなかで、さらなる韋駄天Xの特長が明かされた。韋駄天Xは“水冷でありながら空冷でもあるマシン”だというのだ。

「今までの空冷のユニットを活かしながら、水冷もしているわけです。もともとのモーターのコイルと回転する部分は、ゼロモーターサイクルズのものを使い、そこから冷やすシステムは、自分たちのシステムを使っています。こういう方式のモーターは世界にありません」

モーターとインバーターを冷やすため、電動バイクでもラジエーターを備えている
モーターとインバーターを冷やすため、電動バイクでもラジエーターを備えている

 こうしたアイデアで世界と戦うことができることも、電動バイクレースの魅力のひとつだと岸本は語る。今回の参戦発表会では韋駄天Xの開発にあたった協力会社のスタッフも登場し、韋駄天Xに携わった経緯や開発裏話なども飛び出した。そうした多くのプロフェッショナルな人とつながりのなかで、韋駄天Xは生まれたのだ。

「電動バイクレースをやっていておもしろいのは、いろいろな人とつながることができるということです。そうした人たちといいものを造り、世界の最前線で勝負ができる、というところなんです」

「僕たちが内燃機関のバイクでMotoGPに出ようと思っても、それは簡単にできることではありません。一方、電動バイクレースはまだ始まったばかりです。アイデアでメーカーと同じ土俵で走ることができます。もちろんタイムは違いますが、『何秒落ちならけっこういいな』と考えることができるんです」

参戦発表会には開発に携わった関係者も集まった
参戦発表会には開発に携わった関係者も集まった

■「壊れそう」と馬鹿にしていた電動バイクに乗って味わった感動

 チームの監督を務める岸本はレーサー出身で、地方選手権参戦を経て海外のレースにも出場し、2015年にはアメリカのパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムの電動バイククラスで優勝を果たした。韋駄天Xの開発ライダーも担い、2018年のパイクスにも選手としてエントリーする。

 今でこそ電動バイクでマン島やパイクスに監督、ライダーとしてエントリーする岸本だが、当初から電動バイクに対してよい印象を持っていたわけではなかった。

「あるとき、電動バイクに試乗したら『こんなにおもしろいんだ』と思ったんです。僕はそれまで、電動バイクを馬鹿にしていました。遅いし、壊れそうじゃないですか。ところが、乗ってみたら意外におもしろかったんです。初めてバイクに乗ったときの感動というのが、電動バイクにはあったんですよ」

「電動バイクは基本的に、内燃機関のバイクとは走らせ方が全然違います。これはおもしろい、と思いましたね。信頼性のあるものを造ればこれは確実にモノになる、電動バイクでスポーツできるんじゃないか、と思いました」

 電動バイクには内燃機関のバイクとは違った魅力がある。オートマチックかと言えばそうではない。例えばアクセルに対するリニアな反応も、電動バイクが持つよさのひとつだ。

「僕たちは、エンジンに近いバイクを造っているのではありません。エンジンに近づけなくても最初からそういうフィーリングになっているんです。『よく調教されたインジェクション』という言い方がふさわしいと思います」

「電動バイクは、アクセルを閉じて開けたときのフィーリングがすごくいいんです。内燃機関のバイクの場合は、構造上どうしてもタイムラグがありますが、電動バイクはそれがすごく少ないんです。電動バイクはオートマチックでもミッションでもない。そんないろいろな魅力が詰まったバイクです。僕自身、そこに惚れてしまいました」

 現在が黎明期とも言える乗り物なだけに、可能性も多く幅広い。マン島はタイムトライアル形式で、TT Zeroクラスは参戦チームのバッテリーの性能がそろっていないために1ラップ限りのアタックだが、一斉に全マシンがスタートするレース形式でも電動バイクレースだからこその面白さが出てくるだろうと岸本は語る。

「電動バイクならではの走らせ方が出てくると思います。バッテリーを制限して、いくら速くてもバッテリーマネジメントを考えなければならないような、いろいろな可能性を主催者側が考えられると思いますよ。それに騒音問題が少ないので、市街地レースもできますし、室内でモーターを回すこともできる。そういうのもすごく魅力だと思います」

 電動バイクという未来が詰まった乗り物に惚れ込んだ岸本が、プロフェッショナルたちとともに造り出した電動バイク、韋駄天X。プライベーターとしてマン島に乗り込むチームミライと韋駄天Xの目標とするタイムは、20分以内だ。チームミライと岸本、そして韋駄天Xの、マン島表彰台獲得に向けた戦いは間もなく幕を開ける。

韋駄天Xは電動バイクなので、当然ながらマフラーはない
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スプロケットが大きいのは減速比をファイナルで調整するため
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タンクに伏せたとき、カウルの中にすっぽりと体が入るよう設計されている
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