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MotoGP ニュース

投稿日: 2018.10.04 22:50
更新日: 2018.10.05 11:19

MotoGPコラム:アラゴンでのマルケスの走りに怒りを表したロレンソ。その言い分は正しいか間違いか

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MotoGP | MotoGPコラム:アラゴンでのマルケスの走りに怒りを表したロレンソ。その言い分は正しいか間違いか

 トップレーサーの一部はこのようなものだ。彼らは怒りで頭に血が上り、自分の視点でしか物事を見ることができなくなる。強さというものは、このような見方から生まれる。なぜなら自己不信があったり、自分は正しくないのではという気持ちを払拭できなかったりすると、それはレーサーの心理上、小さいながらも致命的な弱点となるからだ。

 マイケル・ドゥーハンの忠実なチーフクルーであるジェレミー・バーゲスは、5度の世界チャンピオンであるドゥーハンについてこう言っていたものだ。「ミックは常に正しいんだ。たとえ間違っていてもね」

■MotoGPとオーウェルのエッセイに関係性あり

 オーウェルは戦争や社会、人間性といったシリアスな本を書くだけでなく、新聞にも寄稿していた。彼は第二次世界大戦末期に『1984年』の執筆準備を行う一方で、『The Sporting Spirit(スポーツ精神)』という題のエッセイを発表した。このエッセイは英国とビジターチームであるロシアとのサッカー試合についてのものだ。

 オーウェルはサッカーについて「尽きることのない悪意の原因」、「酷い悪感情」、多くの「悪意ある激情」があるとし、「現時点で世界に存在する膨大な悪意を増やしたいのなら、サッカーの試合に勝るものはないだろう」と書いている。オーウェルは、勝つためには手段を選ばない選手たちのことだけでなく、「観客たちはこうしたばかげた試合に対して怒りを爆発させていた」とも指摘している。

 このエッセイで最も有名な個所はこの部分だ。

「真剣なスポーツはフェアプレーとはなんら関係がない。深く関係しているのは憎しみ、嫉妬、傲慢さ、あらゆるルールの無視、暴力を目撃することによる加虐的な喜びであり、言葉を変えればそれは銃撃のない戦争である」

 日曜日に最初のコーナーで起きたことと、オーウェルのエッセイは関係があるだろうか? もちろんある。

ホルヘ・ロレンソ/ドゥカティ・チーム
ホルヘ・ロレンソ/ドゥカティ・チーム

「ブロックパスは正常なものではない」とロレンソはレース後のインタビューでこう続けた。「違法ではないが、紳士協定があるべきだ。ブロックパスは紳士協定に反するものだ。もし彼ら(レースディレクション)が何の対処もしないのなら、やりたくはないが僕も同じ行動をすることになるだろう」

 モーターバイクレースは紳士のスポーツではない。だがなんらかの紳士的なプロフェッショナルスポーツというものはあるのだろうか? そうは思えない。

 ロレンソが怒りを爆発させたことは、ある種の驚きだった。なぜなら彼はこの数カ月で変わったようだったからだ。アラゴンGPのレースウイークでロレンソはこれまでにないほどにリラックスし、自身をしっかりと持っていた。土曜の午後、アラゴンで私はロレンソになぜなのか訪ねた。「僕は年上だから、よりリラックスしている。なぜなら年を重ねるとより多くの経験をし、物事を違う見方で見るようになるからね」

 その通りだろう。そしてロレンソの古くからのライバルであるバレンティーノ・ロッシが達成できなかったドゥカティでの優勝を達成したこと、また小さなことだが過去2シーズンにわたり2400万ユーロ(約31億8000万円)を手にしたことは、新たに至った落ち着きの境地に寄与していることだろう。

 2010年、2012年、2015年にMotoGPチャンピオンとなったロレンソは、レーサーとしても変わった。彼はドゥカティを乗りこなすためにライディング技術を大幅に調整し、ミシュランタイヤに合うようにレース戦略を適応させた。つまりヤマハ/ブリヂストン時代にそうしたように、ライバルたちと距離を置くのではなく戦うことを選んだのだ。

 最近のレースではライバルたち、特にマルケスを華麗に追い抜く場面を多く見せている。ロレンソは誰にも増して急降下爆撃のような攻撃を仕掛けることを学んできた。なぜなら現在のMotoGPの技術時代においては、勝つためにはそうしなければならないからだ。

 ロレンソは、レッドブルリンクでは残り3周のターン9で素晴らしいブロックパスを見せた。彼の乗るデスモセディチGP18はマルケスのRC213Vによってイン側に押さえ込まれていたが、ロレンソは現王者マルケスが蛇行しスライドするよう仕掛けたため、マルケスはロレンソがリードを取りレースで優勝することを防げなかった。

サンマリノGPでのロレンソとマルケスのバトル
サンマリノGPでのロレンソとマルケスのバトル

 サンマリノGPでは、時速130マイル(約209キロ)の右コーナーであるターン12でもブロックパスがあった。勝者ドヴィツィオーゾの後ろで2位争いをするなか、ロレンソはマルケスを抜き去った。

 マルケスはサンマリノGPでロレンソに押さえ込まれても、レース後に不満を漏らしてはいない。不満を言ったら何が起こるか、マルケスは賢明にも分かっている。おそらくマルケスの両親は、すねに傷持つ者は他人を批判しない方がよいと教えたのだろう。誰かがロレンソにこの古いことわざを思い出させる必要がある。

 もちろん、スポーツは良いもののはずだ。レーストラックやサッカー場で良い振る舞いをするよう教えることは、選手が現実世界でも良い人間になる助けになるだろう。しかし、それはプロフェッショナルスポーツという巨大企業よりも、草の根レベルのスポーツに関して言えることだ。

 市民レベルのスポーツを推進している団体、スポーツ・イングランドは「スポーツは、教育から地域の安全に至るまで、社会的に有益な影響がある」と主張しており、主要な利点としては、教育の改善、生涯学習、犯罪の減少、そして地域の団結と安全を挙げている。

■レース後に冷静となったロレンソ


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