マルケスの比類ない能力に畏敬の念を抱いているのはエンジニアだけではない。ライダーというものは、通常ライバルを褒めそやすことはない。しかし、MotoGPのグリッド上の誰もがマルケスの才能を畏怖している。あるファクトリーチームのライバルは、マルケスならアプリリアやKTMのマシンでも表彰台を獲得するだろうと主張している。「そう思わない人たちは、まったく分かっていないんだ」

 もうひとりのライバルは、オフシーズンテストの間にマルケスを追いかけて観察し、非常に驚かされたという。マルケスはレプソル・ホンダ・チームのホンダRC213Vをコーナーに進入させてハンドルバーを意図的に完全にロックさせたのだ。それによりマルケスはアスファルト上でフロントスリックを滑らせることができた。そうしてマルケスは各コーナーのグリップの感触を得ることができた。グリップレベルを超えた時にタイヤがどう反応するかということと、クラッシュを防ぐために肘で何ができるかということについての感触だ。他の誰もこのようなことはできない。

マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)
マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)

 マルケスはこれで7年間に最高峰クラスのタイトルを6度獲得したことになる。彼の前にこのような獲得率を達成したのはジャコモ・アゴスチーニだ。アゴスチーニは1960年代終盤と1970年代初頭に圧倒的優位にあった。だが当時、アゴスチーニが駆っていた500ccのMVアグスタは、グリッド上で唯一のファクトリーバイクだった。現在ではMotoGPのグリッドは完全にファクトリーバイクで構成されている。ほとんどは最新型で、一部は1年か2年の型落ちだ。

 第14戦アラゴンGPで、誰かが7度のMotoGPクラス王者であるバレンティーノ・ロッシに、マルケスは今が絶頂期なのかと尋ねた。ロッシは、マルケスはまだ若く、これからも向上していくだろうから分からないと答えた。

 マルケスが向上することに疑いの余地はないが、他のどのような仕掛けを彼が学べるかについて想像することは難しい。なぜならマルケスのフロントエンドの魔法は始まりでしかないからだ。

 フロントエンドのスライドをセーブする能力によって、マルケスはライバルたちよりも速くコーナーに進入することができる。そして極めて低いボディポジションをとり、肘で転倒を避けることで、マルケスはさらにコーナースピードを利用し、バンク角を深めてRC213Vを速くコーナリングさせることができる。マルケスは他に誰も耐えられないバンク角で走行できるのだ。

 こうしたコーナー進入とコーナー中盤でのスキルは、マルケスに加速エリアでのアドバンテージも与える。なぜなら時速約3km/h速くコーナーを抜ければ、スロットルを開け始める時にはすでに相手の前に出ているからだ。よってより良いやり方でアクセルを開け、タイヤを労わり、コーナーを速く出られるのだ。

■マルケスは「レイニーのようだ」

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