
54周目、1.354秒差。
55周目、1.021秒差。
向こうも辛そうだがこっちもつらい。肩を並べたふたりのマラソンランナーみたいだ。するとベッテルが1コーナーでわずかにラインミス。が、ボッタスのミディアムにも変化が急に始まっていた。一気に襲い掛かる気配が見られない。
56周目、0.760秒差。
どちらも1分36秒台キープ、最後の1コーナーで仕掛けようとしたボッタスを、予測したかのようにベッテルは抑え込んだ。そして後ろにひきつけ一瞬早くアクセルオン、トラクションをかけて加速し4コーナーに備えた。ボッタスは最後に仕掛けにいくためにDRS検知地点の9コーナーを攻め、下り10コーナーに進入。が、ここでまたロックアップ。バックストレートで仕掛けるのは未遂のまま終わり、あとはレースリーダーが何かミスを犯してくれるのを待つしかなかった。
57周目、0.699秒差。
ファイナルラップは自己ベストよりも2.580秒も遅い1分37秒033、200戦目のゴールはそれで充分だった。ヒーローインタビューに饒舌にしゃべるベッテル、一方ボッタスは紅潮した表情で言葉が少なかった。勝者と敗者、心の明暗がはっきり表れたのはこのゲームが、ほんものの『ドライバーズ・レース』だったからだ。
もう一人このドライバーズ・レースにはウイナーがいた。5位からスタートを決め、サイド・バイ・サイドでもひるまずに攻め、ミスも全くなく2戦目のトロロッソ・ホンダで4位初入賞のガスリー。初日FP1から彼の中に新しいリズムが湧き出し、予選、決勝でも無心にそのリズムを追っているかのように映った。2月に22歳になった彼は、自分がいままでとは違った世界に足を一歩踏み込んだのを知った――。

