──最後に、日本人F1ドライバーの可能性についてです。2018年にスーパーGTとスーパーフォーミュラでタイトルを獲得した山本尚貴選手が第11戦ドイツGPを訪れ、第17戦日本GPでフリー走行1回目に参加することを目指していることが明らかになりました。
尾張:僕は日本人ドライバーを今のトロロッソ・ホンダに乗せてもいいと思う。
柴田:山本選手がドイツGPに来たときに話をしたのだけど、今の日本人ドライバーの状況をみて、純粋にパフォーマンスにおいて日本人のトップは彼なんだなと思った。ただ山本選手はヨーロッパのレースをまったく知らないので、あくまでもフリー走行で走らせるのは誰がいいのかという話のなかでは、問題ないと思う。
ひと昔前のF1と今のF1を比べると、F1ドライバー全体のレベルが底上げされていて、日本人ドライバーの付け入る隙がなくなってしまっている。世界に取り残されている感じがするし、たとえば今年F2に参戦している松下信治がスーパーライセンスを獲得してF1にステップアップしても、どれだけ活躍できるかというとね……。すこし厳しい感じもある。
──尾張さんはいかがでしょうか?
尾張:僕は単純に日本人ドライバーを見てみたいね。日本人ドライバーが取り残されている感じはたしかにあるけれど、乗せてみないとわからない。もしかしたらすごい活躍をするかもしれないから。
ピエール・ガスリー、ストフェル・バンドーン(ともに日本のスーパーフォーミュラからF1へステップアップ)を見ると、日本人ドライバーも“そこそこ”は走れるんじゃないかなと思う。ならチャンスを与えても良いのかもしれない。
柴田:尾張くんが言ったように、下位カテゴリーではそこそこの活躍しかできなくても、F1で輝ける日本人ドライバーもいるかもしれない。でもガスリーとバンドーンにしても、日本で走っているときには凄いドライバーだと言われていたけれど、F1にステップアップしたらそれほど活躍していない。それを見てしまうとね……。
──山本選手がドイツGPへ行った際、日本ではかなり話題になっていたのですが、現場ではどうだったのでしょうか。
柴田:山本の写真をツイッターで上げたら『いいね』の数が凄かった(笑)。
──国内レースファンの期待はかなり大きいと思います。
柴田:テストの機会がほとんどないので、まずはフリー走行を走るのは全然やぶさかではないと僕は思う。でも万が一、いきなり2020年のF1のレギュラードライバーになると考えたら、疑問は残るよね。ヨーロッパのサーキットやピレリタイヤを知らないという状況で走っても、速いかどうかはわからない。日本人ドライバーのなかで、未経験のサーキットを走って最初から速かったのは、小林可夢偉選手くらいだったかな。
山本選手は、来年はシミュレータードライバーをしながら、何戦かでフリー走行を走ってヨーロッパのサーキットを学んだほうが良いと思う。
尾張:山本選手はフリー走行を走る前に、『F1マシンで300km走らなければならない』というレギュレーションをどうクリアするかだね。まさかレッドブルも、型落ちのレッドブル・ルノーのマシンは走らせないでしょう。
柴田:そうかな? ルノーのエンジンを積んでいるから走らせられないということはないと思う。
尾張:この条件を乗り越えるのは簡単なことではないけど、レッドブル・ルノー時代のマシンにこだわる必要はないと思う。ホンダの内情はわからないけれど、ホンダが本当に山本選手を乗せる気があるならば、どういう手段を使ってでもF1マシンに乗せないといけない。
──大きな壁が残っていますが、なんとか鈴鹿に向けてクリアしてもらいたいですね。日本GPの楽しみがまたひとつ増えそうです。
尾張:そういえば、(レッドブルに燃料を供給している)エクソン・モービルも“鈴鹿スペシャル”を投入します。
──それはホンダのスペック4とは関係なく、鈴鹿で投入するのでしょうか?
柴田:全然パワーユニットのアップグレードとはシンクロしていないね。15馬力くらい上がるんだっけ?
尾張:いや30馬力。30馬力というのは、スペック2からスペック3へのアップグレードより大きな数字だよ(笑)。田辺(豊治/ホンダF1テクニカルディレクター)さんは「30馬力も上がらない」と言っていたけれど、30馬力というのは、パワーユニットと燃料を組み合わせての向上した数値だから。
新しい燃料は、パワーユニットのアップデートとは別に投入されると聞いているよ。ただエクソン・モービルは鈴鹿スペシャルとは別にもうひとつ新しい燃料を準備していて、そちらを早く投入したいみたいだね。
──今年は例年以上に鈴鹿の日本GPが楽しみですね。シーズン後半戦に向けて、レッドブル・ホンダは5勝できるのか、山本選手はフリー走行を走れるのかなど、目の離せない展開になりそうです。おふたりとも、またシーズン後に機会がありましたら今回の予想の反省会などでよろしくお願いします(笑)。
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柴田久仁夫
静岡県出身。TVディレクターとして数々のテレビ番組を手がけた後、1987年よりF1ライターに転身。現在も各国のグランプリを飛びまわり、『autosport』をはじめ様々な媒体に寄稿している。趣味はトレイルランニングとワイン。
尾張正博
宮城県出身。1993年よりフリーランスのジャーナリストとしてF1の取材を開始。一度は現場からは離れたが、2002年から再びフリーランスの立場でF1を取材を行い、現在に至るまで毎年全レースを現地で取材している。