メルボルンでのフリー走行は興味深かった。主にウインターテスト以降に変更や開発が行われたマシンを見るためだったが、実際に一部のマシンはいくつかのアップグレードを施していた。
とはいえ、アルバートパーク・サーキットは、マシンのパフォーマンス比較を行うのに適した場所ではない。常設サーキットではなく、路面が荒れてバンピーであり、そのレイアウトはマシンのパフォーマンスとは違う結果を出す傾向にある。
金曜日のフリー走行1回目で、メルセデスはハミルトンがエンジントラブルに見舞われていた。一方、ルノーのパワーユニットを搭載した8台のうち半数となる4台が走行すらできなかった。フリー走行2回目も同じような展開だった。
私はレッドブルやトロロッソにそれほど期待していなかった。どちらもこの時点までにパワーユニットのトラブルなしに30周以上マシンを走らせることができていなかったのだ。そのため、ルノーのパワーユニットのどこが悪いのかについて多くの記事を書くつもりだった。
予選はちょっとしたドラマだった。Q1途中で強い雨が降ったため、雨が降る前にタイムを出していた小林可夢偉(ケータハム)がQ2進出を果たしたのだ。
Q2になるとコースもドライになり始めていたのでケータハムには競争力がなく、可夢偉は脱落したが、セバスチャン・ベッテル(レッドブル)とジェンソン・バトン(マクラーレン)もQ2でノックアウトとなった。
これは本当に驚きだった。イギリスにいた私は時差のためにとても眠かったのだが、予測できないことがあって嬉しかった。
Q3は予想通りに進んだ。ウエットではあったが、メルセデスのハミルトンがポールポジションを獲得した。メルセデスのもう1台を駆るニコ・ロズベルグを破ってレッドブルのダニエル・リカルドが2番グリッドを獲得した。
ルノーのパワーユニットの信頼性は、リカルドが母国の観衆の前で素晴らしい走行を見せるのに十分長いこと持ちこたえた。しかし私は、翌日のレースでレッドブルはフィニッシュできず、ハミルトンが圧倒的優位に立つだろうと考えていた。
オーストラリアのレースデーは私にとって常に少々難しいものだ。レースのテレビ放送はイギリスの朝の5時頃に始まる。そのため、レースの前後に数時間ずつの睡眠を取るのが常だ。ふだんなら濃いコーヒーだけが眠気を乗り越える唯一の方法だ。
だが2014年は非常に興奮していた。コース上で新しいパワーユニットがどのようなレースを展開するか、そしてルノーのパワーユニットのどのパーツが故障するかを見たくてしかたがなかったからだ。
レース開始前ですらトラブルがあった。フェラーリのパワーユニットを搭載するマルシャの2台はパワーユニットを動かすことに苦戦していたし、ルノーのパワーユニットを使用するロータスは、ロマン・グロージャンがピットレーンスタートとなった。チームがパルクフェルメ条件下でマシンに作業を行なったからだ。
スタートシグナルが消えると、私の予想はすぐにゴミ箱行きとなった。3番グリッドからロズベルグが素晴らしいスタートを切って、リカルドとハミルトンの2台を抜き、首位に出たのだ。
さらに後ろでは、可夢偉も素晴らしいスタートを切っていたが、第1コーナーでブレーキのワイヤーシステムにトラブルが起きた。可夢偉は減速できず、グラベルに向かう際に第1コーナーでフェリペ・マッサ(ウイリアムズ)と接触し、リタイアとなった。
最初のラップが進むにつれ、ベッテルがパワーユニットにトラブルを抱えていることがはっきりした。ベッテルは無線で、ルノーのMGU-Kが機能していないとチームに伝えた。
しかしその後すぐ、ハミルトンもトラブルを抱えていることがわかった。彼のマシンは5つのシリンダーしか機能しておらず、スパークプラグのリードは壊れており、結果2周目にリタイアを余儀なくされた。ハミルトンがレースで優勝するだろうという私の予想は間違いであることが明らかとなった。ベッテルもそれほど長くは続かず、3周目にリタイアした。
レースが進むにつれて、ルノーのパワーユニットを搭載したマシンが1台、また1台と脱落していった。マーカス・エリクソン(ケータハム)は27周目に、パストール・マルドナド(ロータス)はその2周後に、そしてグロージャンは43周目でリタイアした。
これらのマシンはすべて、ルノーのパワーユニットのトラブルでリタイアしたが、これは予想通りだった。予想外だったのは、ルノーパワーユニットのマシンがまだ3台も走行していたことだ。
この時点での私の仕事は、最初に起きた可夢偉のマシンのトラブルについてだった。チームはメディアに対し、彼は「BBW(ブレーキ・バイ・ワイヤ)のトラブルに苦しめられた」と説明したが、多くの人々はそれが何を意味するのか分からず、私のTwitterアカウントに質問してきた。間もなくしてウェブサイトや雑誌もそれが何なのか私に説明を依頼してきた。
一部の人々は、それはチーム内のある種のプライベートジョークなのではないかとさえ言いだした。「可夢偉はレース前夜、太っているが魅力的な女性に気をとられ、スタートの時点で集中できていなかった」なんていうのだ。
英語を話さない人にとってこの決めつけは非常に奇妙に思えるだろうが、この英語の“BBW”は普通は“Big Beautiful Woman(太っている美人)”を意味し、これはポルノジャンルのひとつなのだ。
一般のメディアとテレビが新しいパワーユニットの音について不満を述べるのに多くの時間を費やし、読者や視聴者にマシンのワイヤーシステムが破損したこと、そしてその用語を説明すらしなかったので、“BBWトラブル”は非常に奇妙に言葉と捉えられていたのだ。
レースは進行していたものの、私は可夢偉のケータハムに何が起きたのか、なぜF1マシンにはBBWシステムがあるのかを説明する記事を書いていた。
コース上では素晴らしいバトルが繰り広げられたが、首位を走るロズベルグが圧倒的優位にあった。しかし、素晴らしいことに地元の英雄リカルドは2位でフィニッシュすることができた。
リカルドのマシンはルノーパワーユニットを搭載していたが、ノートラブルで最長時間を走行でき、競争力もあったため私は感心した。マクラーレンも3位と4位という良い結果を出した。