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F1 ニュース

投稿日: 2021.01.18 16:01

1.6リッターV6ターボ時代の幕開け、2014年オーストラリアGP【サム・コリンズの忘れられない1戦】

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F1 | 1.6リッターV6ターボ時代の幕開け、2014年オーストラリアGP【サム・コリンズの忘れられない1戦】

 レース後、私はBBWについての記事を書き終えてリラックスし、インタビューを聞きながら目を閉じて眠ろうとしていた。レースから約1時間後、少し眠り込んでいたなか電話が鳴った。

 それはメルボルンにいる記者仲間からで、彼は急いで話をしたがっていた。リカルドのマシンが、燃料に関する問題で失格となったのだが、彼は何が問題なのかを理解できなかったからだ。

 目を覚ますと、リカルドの失格と関係する書類を見つけた。問題だったのはそもそも燃料ではなく、ルノーのパワーユニットがどのように燃料を使ったかということだ。

 2014年のパワーユニット・レギュレーションの一環として、F1は燃料流量制限を導入した。燃料流量計を使用し、チームが制限以下の流量でマシンを走らせるようにしたのだ。そのため、2014年シーズンのF1マシンは1時間あたり100kgのペースの流量を超えることはできないのだ。

 WEC世界耐久選手権はF1と異なる制限を課していたが、スーパーGTのGT500クラスと全日本スーパーフォーミュラ選手権と同様のレギュレーションを採用していた。

 そんななか、日本のふたつのシリーズは、トヨタが開発したクレバーなフロー・リストリクターを使用していた一方で、F1とWECは超音波フロー・センサーに頼っていた。

 燃料流量率を正確に測定するのは、特にF1マシンのような過酷な環境では非常に複雑なことだ。だが、それがFIA(国際自動車連盟)が業界に出した課題だった。結果、2社が新たに燃料流量センサーを開発したが、双方とも農業機械にルーツを持つ同じ技術を元にしていた。

 この件を私は綿密に調査していた。WECの数多くのチームが、これらの新センサーの精度と信頼性に悪戦苦闘していたのだ。ポルシェに至っては、流量センサーのデータが「安定していない」と公に不満を述べるに至った。

 レッドブルも燃料流量センサーが不正確な測定値を示す問題を見つけており、オーストラリアGPの週末の間に、そのうちのいくつかを交換した。チームは規則に違反しておらず、リカルドの失格を上訴すると、争う姿勢をみせた。

ルノーPU勢最高位となる2位でチェッカーを受けたダニエル・リカルドだったが最大燃料流量違反で失格となった。
ルノーPU勢最高位となる2位でチェッカーを受けたダニエル・リカルドだったが最大燃料流量違反で失格となった。

 その後の8時間で、私は燃料流量制限が何を意味するのかについて説明する記事を書いていた。多くの記者やファンが、燃料流量と燃料消費量の違いを理解するのに苦労していた。その日の朝、イギリスのラジオ局のインタビューのなかで、リカルドが失格になった理由を説明する良い方法にたどり着いた。

「F1には最大燃料流量率と最大燃料消費量の両方を制限する新レギュレーションがある。このふたつには重要な違いがある。燃料消費量はどれだけのビールを飲むことが許されているかということであり、燃料流量率は、どれだけ早くその量のビールを飲むかということだ」

「あなたが1パイントのビールを一気に飲むと、流量率は高くなる。同じ量のビールをゆっくりすすれば、流量率は低くなる。つまり、FIAはリカルドがビールをわずかに早く飲みすぎたと考えており、それが彼が失格になった理由だ」と話した。

 奇妙なことに燃料をビールに置き換えると、皆よく理解できたようだ。

 F1の燃料レギュレーションについて、8時間かけてラジオやソーシャルメディア、そして記事を書くことで説明し、ようやく少し休む時間が持てた。疲れ果てていたが、私の1日は終わってはいなかった。短い睡眠をとった後、夜にはNASCARのレースを観戦するためだ!

リカルドの失格で3位となったジェンソン・バトン(マクラーレン)
リカルドの失格で3位となったジェンソン・バトン(マクラーレン)

 だが、この話はこれで終わりとはならなかった。レッドブルは失格について控訴し、数週間後に審理が行われた。あの週末には、数多くのセンサートラブルが起きていたことが浮上した。レースの前ですら、リカルドのマシンのセンサーの精度には深刻な懸念があったのだ。

 レッドブルは、リカルドのマシンが合法であることを証明しようとしたが、それはできなかった。だがFIAも、どの点においても彼のマシンが違法であることを証明できなかったのだ。

 他のチームも同じ問題に悩まされただろうが、彼らは燃料流量の計算エラーに多少の余裕を持たせていたので、おそらく最高でも99kg/hで走行していた。しかしレッドブルはルノーのパワーユニットの許される限界までプッシュし、パフォーマンスを引き出そうと必死だった。

 そのためにメーターが故障し、彼らが100kg/hの制限を超えたか判断することが不可能になったのだ。

 これは無罪が証明されるまでは有罪となるケースだった。レッドブルは無罪を証明できず、失格となった。私は今日にいたるまで、リカルドが失格にされたのは間違った判断だったと考えている。しかしながら、あの失格はある小さな記憶に残る事実につながっている。

 2014年オーストラリアGPを終えたマクラーレンは、コンストラクターズ選手権でメルセデスを抜いて首位に立ったのだ。それ以降はメルセデスがコンストラクターズ選手権のトップに君臨した。2014年オーストラリアGPは今のところ、マクラーレンが世界選手権でトップとなった最後の瞬間となっているのだ。

2014 FORMULA 1 ROLEX AUSTRALIAN GRAND PRIX – Race Highlights
ハイライト映像:https://youtu.be/9gUs7-6gGM0

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サム・コリンズ(Sam Collins)
F1のほかWEC世界耐久選手権、GTカーレース、学生フォーミュラなど、幅広いジャンルをカバーするイギリス出身のモータースポーツジャーナリスト。スーパーGTや全日本スーパーフォーミュラ選手権の情報にも精通しており、英語圏向け放送の解説を務めることも。近年はジャーナリストを務めるかたわら、政界にも進出している。


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