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F1 ニュース

投稿日: 2022.09.01 17:30
更新日: 2022.09.01 17:47

【中野信治のF1分析/第14戦】スパの難コースで独走したフェルスタッペンの髙スキル。露呈されたフェラーリとメルセデスの特性

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F1 | 【中野信治のF1分析/第14戦】スパの難コースで独走したフェルスタッペンの髙スキル。露呈されたフェラーリとメルセデスの特性

2022年シーズンのF1は新規定によるマシンの導入で勢力図もレース展開も昨年から大きく変更。その世界最高峰のトップバトルの詳細、そして日本期待の角田裕毅の2年目の活躍を元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点で振り返ります。今回は夏休み明けのシーズン後半戦の最初の一戦、第14戦ベルギーGPで予選14番手から逆転優勝したマックス・フェルルスタッペンとレッドブルの圧巻のパフォーマンスの背景を考察していきます。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 夏休み明けの2022年F1第14戦ベルギーGPはマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が予選でトップタイムをマークして、パワーユニット関連の交換でペナルティ降格となった14番グリッドからスタートしながら、見事な追い上げて優勝を飾るという圧巻の速さと強さを見せつけたレースになりました。フェルスタッペンは金曜日のフリー走行から好調そうで、1発の予選タイムやロングランのペースを見ていても『この週末はレッドブルだな』ということをすぐに感じ取るができました。

 その速さの理由について、本当のところはチームしかわかっていないと思いますが、見えていた部分として、今回はチームメイトのセルジオ・ペレスとのギャップが大きかったのが目立っていましたよね(予選で0.8秒差)。おそらく、レッドブルのアップデートの影響があるとは思います。これまでの前半戦では、今季からレギュレーションが変更された影響でマシンが跳ねてしまうポーパシングから始まり、車重も重くなりアンダーステア傾向が強くなったマシンでした。

 どのチームも同様だと思いますが、まずはそのポーパシングを改善するというところからチームは作業を続けてきて、ある一定の成果が出てきたところで前半戦が終わった。そして後半戦に向けてどういった方向性、流れでマシンのセットアップを進めていくかというところで、マシンの基本的な問題は解決したので、いよいよ今度はドライバーに合わせてカスタマイズしたクルマ作りにシフトしていくという流れになったのだと思います。

 フェルスタッペンが好むマシンとしては、簡単に言えばよく曲がるクルマ、フロントがすごく(コーナーに)入っていくオーバーステア傾向のクルマです。今回、これだけペレスと大きな差がついた一番の理由としては、このベルギーGPが開催されたスパ・フランコルシャンはセットアップでダウンフォースを少なくする傾向のサーキットであることが挙げられます。

 ダウンフォースが少なくしている分、ブレーキングからターンインに向けてクルマが不安定になるコーナーが結構あり、しかもアップダウンも大きいサーキットなので、下りながらのブレーキングやターンインも多くなるコースです。

 ですので、ダウンフォースが少なく、そしてフロントが入っていくマシンではコントロールが難しくなります。そういったサーキットに来ると、どうしてもフェルスタッペンとペレスはもともとのドライビングスタイルの差という部分がはっきりと出てしまいます。スパはそういった意味でドライビングスタイルやクルマの特性など、いろいろな要素や差がわかりやすく出るサーキットでもあります。

 予選のアタックでも、『バスストップ・シケイン』と呼ばれるターン18〜19のシケインのブレーキングから切り返しで、フェルスタッペンはものすごくスムーズにクリアしていったのが印象的でした。あのシケインは手前の路面からアンジュレーション(凸凹)がすごく強く、ブレーキングからターンインして上って平面になり、そこからまた登っていくみたいなコーナーですので、タイヤを綺麗に路面に設置させるのが難しいコーナーです。さらに、縁石に乗せる角度が悪いと、クルマも跳ねてしまいます。

 フェルスタッペンはそのシケインで流れるようにリヤの軽いクルマを滑らせて抜けていきます。リヤを滑らせているのですけども、自分のコントロールの範囲内でクルマを支配下に置きながら滑らせるテクニックで、これはまさにフェルスタッペンにしかできないような技ですね。

 ダウンフォースやタイヤのグリップに頼って走ってしまうとそのドライビングはできず、あのシケインで綺麗な走行ラインを通ろうとすると、どうしてもクルマを止めすぎてしまったり、コーナリングスピードが若干落ちてしまったりしてしまいます。

 その部分で、クルマの慣性の微妙なところ、グリップが抜けるタイミングでマシンを滑らせながらコントロールして、その滑っている時間と距離とクルマの挙動を予測しながら走ることのできる技というのは本当に今のF1でも数人しかできないと思います。そのなかでもやはり、その技が抜群にうまいドライバーがフェルスタッペンであることは間違いありません。そういった意味で、フェルスタッペンの良さが出まくっていた(笑)レースでした。

 一方で、フェラーリはそのシケインで苦戦しているように見えました。シャルル・ルクレールも予選のアタックでは明らかにクルマを縁石に乗せる角度や量を間違っていて、ドライバーというのはそういったときにクルマからよくない反応があると、実際以上にクルマのバランスを悪く思い込んでしまう傾向があります。今回のフェラーリとルクレールに関しては、実際のクルマのセットアップもあまり決まっていませんでしたが、それに加え、どうしてもレッドブルに追いつけない、ペースの差がありすぎるという焦りから来ている部分もタイム差への影響が大きいのかなと感じました。

 今回のフェラーリに関しては、タイヤのデグラデーションにおいても、前半戦で悩んでいたデグラデーションの早さの問題がスパでまた発生してしまいました。今回はレッドブルとフェラーリでストレートスピードの差はそれほど大きくなかったので、レッドブルがダウンフォースを付けているか、フェラーリがダウンフォースを減らしてきているかのどちらかが考えられます。

 そのどちらだとしても、これまでの前半戦ではレッドブルはダウンフォースを少なめにして速く走るクルマで、対してフェラーリはダウンフォースをつけてコーナーリングでタイムを稼ぐクルマでした。スパは直線が長く全開率も高くてストレートスピードで稼ぐ部分が非常に大きいサーキットなので、今回はその対抗としてストレートスピードで負けないようにフェラーリがダウンフォースを“減らさざるを得ない”という状況になっていたのだと思います。

●マシンのパフォーマンス以上に苦しんだフェラーリとルクレール。予選はキツいがレースで強いメルセデスと、あと一歩の角田裕毅


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