なお、可夢偉はレース翌日、ノースカロライナ州シャーロットに位置するチームのファクトリーでシミュレーターとミーティングを行っている。
これは可夢偉自身の次なる参戦機会に備えるものではなく、チームのシミュレーションの精度を上げるためのルーティンの確認作業なのだという。毎週のようにレースが繰り返されるうえに、レースウイークの走行時間が少ないNASCARでは、チームのシミュレーション技術と、そこから導き出される持ち込みのセットアップがリザルトを左右するからだ。
「シミュレーションのクオリティを上げるために、行く前にも、レース後にもシミュレーターに乗って、『何が実際(の走行)と違うのか』という評価をするんです」と可夢偉は説明する。
「20分のプラクティスしかなく、その10分後に予選という世界では、持ち込みセットアップで勝負するしかない。それには、シミュレーションの精度を上げるしかありません」
シミュレーションに重きが置かれるNASCARの世界に触れた可夢偉は、「日本のモータースポーツでも、本質は取り入れるべき」と語る。シミュレーション技術の向上が、自動車メーカーにとって今後の生命線となっていくと考えられるからだ。
「データに基づいてシミュレーションの精度を上げることができれば、自動車会社も『作って・壊して』ではなく、コンピューターのシミュレーションで『ドライバーがこういうものを求めているから、こういうクルマを作ろう』となっていく。だから、モータースポーツが、もっといいクルマ作りに貢献できる可能性があります」
「僕は(今回NASCARを)経験して『日本のモータースポーツも、本来はこれを取り入れるべきじゃないのかな』と純粋に感じたし、スーパーフォーミュラも、もしそういう貢献ができるのであれば、いいクルマを作るためのツールのひとつになるんじゃないか、と」
今回の経験を「レースに出られる云々だけじゃなく、日本のモータースポーツが本当に世の中のためになるためには……という部分でも、何かが見られた」と総括した可夢偉。次なる参戦機会だけでなく、今回の経験が今後にどう活かされていくのかも、とても楽しみだ。
