今年でF1日本グランプリ開催25回目を迎える鈴鹿サーキット。過去24回のレースの中からファンの投票により選ばれたベスト10レースを連載形式で紹介していきます。第9位には、アイルトン・セナが、当時最速と言われたウイリアムズのマシンを駆るアラン・プロストを抑えて優勝した1993年のレースが選ばれています。
1993年、セナはマクラーレンで6年目のシーズンを迎えたが、ホンダが92年限りで撤退したため、フォードのV型8気筒カスタマーエンジンでの参戦となった。1年間休養していたプロストは、当時最速のV型10気筒ルノーエンジンを搭載するウィリアムズからF1に復帰した。
そのパワーの差は歴然で、予選では第14戦までにプロストが12回、チームメイトのデイモン・ヒルが2回と、ウィリアムズ・ルノーがPP(ポールポジション)を独占した。そしてプロストは第14戦までに7勝を記録し、第15戦日本グランプリを迎える前にドライバーチャンピオンを決めていた。
この年限りでのF1引退も表明していたプロストは、鈴鹿と最終戦オーストラリアを連勝して、有終の美を飾ることに専念。まだ1度も勝っていない鈴鹿で、初の予選PPを獲得した。しかしセナも黙ってはいない。予選最後のラップ、渾身の走りでプロストのタイムを追った。130Rは全開。シケインは誰よりも速く駆け抜けた。結果、プロストに100分の1秒およばなかったものの、2番グリッドを獲得した。
鈴鹿4度目のセナ・プロスト最前列対決。スタートではセナが先行した。しかし2ストップ作戦のセナに対し、プロストは1ストップ作戦を採用。14周目にピットインしたセナを横目にプロストがトップに躍り出た。お互いピットストップは残り1回。このままではプロストの優勝だ。
その後、鈴鹿の空が一気に暗くなった。雨だ。16周目あたりから降り始めた雨は、徐々に路面を濡らし始めた。するとプロストとセナの差はみるみる縮まり、21周目、ついにセナはプロストの前に出た。その後2人はレインタイヤに履き替えたが、ドライバーの腕がものをいうウェット路面のセナは速かった。後ろにもうプロストは見えない。完全な独走態勢だ。
途中から雨が降り出したブラジルグランプリで優勝した。スタート時に雨が降っていたヨーロッパグランプリではオープニングラップで4台抜きをみせ優勝した。曲がりくねったドライバーズコース、モナコグランプリでも優勝した。ドライビングが難しい状況で、セナはマシンの性能差を超えるドライビングをみせてきた。
その神がかり的な走りを、鈴鹿に集まったファンの前でも披露したのだ。鈴鹿での快挙達成を目前に、ファイナルラップ走行中に喜びのあまり思わずファンに手を振った。それほどまでに欲しかった鈴鹿での勝利を、15万人の大観衆が見守る中、手に入れた。
結果的にセナ最後の鈴鹿となった93年F1日本グランプリ。最強マシン、ウィリアムズ・ルノーと王者プロストを敵に回して表彰台の頂点を勝ち取ったセナの走りは、今でも多くのファンに語り継がれるものとなった。