今シーズンからロータスF1チームのチーフエンジニアに昇格した小松礼雄エンジニア。現役エンジニアがどのようにF1,そしてレースにアプローチしているのか。本人の言葉でお伝えしていくコラム。F1速報有料サイトでの掲載の一部を、お届けします
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第2回
いよいよ開幕! テストとレースのセットアップ
バルセロナの2回目のテストは、1日目が終わったところで急遽イギリスに帰ることになりました。私ごとですが、2人目の子供が生まれたためです。2日目の朝にサーキットに着いたところで電話がかかってきて、すぐに上司とチームマネージャーに伝えて、そのままサーキットを出ました。チームウェアのまま飛行機に乗って、サーキットに行くときのリュックを背負ったまま病院に行きました(笑)。おかげさまで母子ともに健康です。このような時、ヨーロッパの文化では家族の事情をとても尊重してくれます。開幕前の大事なテストでしたが、サポートしてくれたチームスタッフには、本当に感謝しています。
開幕直前の2度のバルセロナテストを終えた感想としましては、とりあえず基本のメニューはこなすことができたというところです。予選練習やレースディスタンスでの信頼性、走らせるまでのさまざまな進行手順などある程度確認しなければならない部分は見ることができました。しかし、1回目の3日目以降はコンディションに恵まれなく、セットアップ関連はデータを理解するのが難しい状況でした。ご存じのようにT2のバルセロナ4日目は風が強くて、ピットウォールに座った瞬間に「これは酷い、今日は厳しいテストになる」と覚悟するくらいでした。何人かのドライバーがコースオフした際に風の影響をあげていましたが、それぐらい把握しにくい状況でした。フェルナンド(アロンソ)の事故も、この日に起こりましたが本当に何が起こったのかは外からでは分かりません。
そのような状況だったので、空力パーツやセットアップ変更などのデータを理解するのがとても難しかったです。たとえばコーナーの進入で追い風の突風が吹いたら、そこでダウンフォースが抜けてしまいます。そういうことがコーナーの至るところで起こるから、クルマのバランスの変化がセットアップ変更によるものなのか、それとも風によるものなのか判断を下しづらい場合がありました。しかも、あのようなコンディションではクルマのベースセットアップ自体も通常の状態ではなく、風の影響を考慮して安定方向で走らせないといけなくなります。自分たちのいつものベースラインと違うセットアップで走らせるので、出てくる問題点も違ってきます。たとえば通常、低速コーナーでアンダーステアが問題になるときも、風が強い状況ではテールウインドウによって進入時はオーバーステアになります。ですので、いつものアンダーステアを消そうとするセットアップの変更はできなくなるので、どうしても安定性の高い方向にセットアップを振ることになります。しかし、そうしたセットアップは通常のコンディションでは速いタイムが出せない可能性が高いんです。どのチームも状況は同じだと思いますけど、そういう意味で辛いテストでした(苦笑)。
シーズン前に3回しかない貴重なテスト日でそういう状況になってしまうと、今季新しい要素を入れたクルマや、大きく変わっているクルマはより辛くなります。昨年からの踏襲型のクルマにとっても良くはないですが、そういうクルマはベースラインが既にきっちり出ているはずですからコンディションに合わせて走って問題はないわけです。ウチは去年とは空力のコンセプトも違い、ベースラインを出している最中なのできつかったです。なので、このオフのメニューの消化具合としては5割5分から6割といったところでしょうか。まだまだ、全体的なグリップ不足という問題も残っている状況です。
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