ちょっと毒舌なF1ジャーナリストがお届けするF1の裏話。昨年、好評連載されていたこちらのコラム。今年も引き続き、F1速報サイト限定コラムの一部をお届けします。

ブラジルは普段着でOK
 サンパウロの渋滞について嘆く気まんまんだったのに、2週間前のメキシコシティのことを思えば、今週末のサーキットまでの通勤は楽勝だった。スコットランド高地のドライブコースをエンジョイしているようなものだったよ。

 実は、ブラジルでは毎年少なくとも1回はF1関係者が恐ろしい事件に巻き込まれる。ナイフや銃や野球のバットで脅されて、持ち物すべてを盗まれてしまうんだ。チーム関係者は、サーキットへの行き帰りにチームウエアを着ずに、なるべくみすぼらしい服装をするよう忠告される。つまり私の場合は普段着でOKというわけだ。

 この街の高級レストランは分厚いオーク材のドアで遮られ、重武装した警備員が入り口を守っている。一方ダイナーでは、パテックフィリップから安物のジュエリーまですべて巻き上げられ、それでも命があることを互いに喜び抱き合うシーンが日常茶飯事なのだ。

 だがこの週末にはもっと深刻な暴力がメディアを賑わせた。2001年のイタリアGPでミハエル・シューマッハーがオープニングラップの1コーナーでペースを落とそうと皆に呼びかけたことがあった。ニューヨークで9・11の悲劇が起こり、インディカーではアレックス・ザナルディの悲惨なクラッシュが起きたばかりだったのだ。だが全員の同意は得られず、シューマッハーの提案は通らなかった。正直に言ってもいいかな。アメリカでテロリストの攻撃があり、ドイツのレースで悲惨なアクシデントがあったからって、イタリアのレースの1周目がいつも以上に危険とは思えないよね。

 金曜夜のパリ、現実世界で再び起きた残虐行為はあまりにも悲惨で、夢の国F1の固い甲羅をも貫いた。今後数日、数週間、数カ月の間に、私たちは身近な人の中に直接の被害者がいることを知るだろう。フランスメディア、ルノーのクルーなど、フランスとつながりがある人々がF1には大勢いるのだ。

 今、F1界の人々ひとりひとりが、自分自身と自分の仕事を省みている。パリで起きた残虐な死傷事件に直面した後、物事を大局的に見てみると、グランプリレーシングなどいかにとるにたらないものかを思い知らされている。政治的論争、くだらないいさかい、一握りの統治者の強欲さに振り回される、狭い世界のスポーツにすぎない。

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