第15戦 ソノマ
ふたつのアクシデントに巻き込まれる

 佐藤琢磨をIZODインディカー・シリーズのポイントリーダーに押し上げた目映いばかりの春は終わり、陰鬱な夏は数多くの不運とアクシデントを琢磨にもたらした。したがって、もしもカリフォルニアの“ワイン・カントリー”で素晴らしい走りができたなら、それは新しいシーズンの素晴らしい幕開けとなったことだろう。ところが、苦労の末にマシーンを仕上げた琢磨とAJフォイト・レーシングは鮮やかにトップ10を走っていながら、避けきれないアクシデントのため入賞のチャンスを逃したばかりか、続いて起きた「逃げ場のない事故」のためリタイアを余儀なくされた。悲しい夏のスランプは、まだその勢いを失っていないようである。

 琢磨とAJフォイト・レーシングはマニュファクチュアラー・テストとオープン・テストのふたつに参加してソノマのレースに備えたが、前者にはほぼ全チームが、そして後者にはすべてのチームが参加したため、結果的には全体的なコンペティションのレベルを押し上げることにしか結び付かなかった。

「マシーンのことを学ぶにはとてもいい機会で、たくさんのアイテムを試しました」と琢磨。「ミドオハイオのレースが終わってから、僕たちは高い戦闘力を取り戻せるよう強く希望していましたが、バランスとグリップについていえば、どちらのテストでも満足のいくレベルには到達しませんでした。それでもいろいろなことにチャレンジし、間違いなく進歩もしましたが、レースウィークエンドを迎える前に行わなければいけないことはたくさん残っていました」

「ソノマは、コースレイアウトの面だけでなく、舗装の面でも、丘の上という地形の面でもトリッキーなサーキットです。午前中から午後にかけて風向きは180度変化するほか、日中に吹く風は砂やホコリを路面に向けて巻き上げるため、コースコンディションは目まぐるしく変化します」

「それに加えて、今回ファイアストンは新しいタイアを持ち込みました。これは、新品の状態では高い性能を発揮しますが、デグラレーションがとても大きいので、タイアの使用本数が限定されているとテストはとても困難なものになります。せっかくセッティングを変更しても、コースコンディションもそのたびに変わってしまうので、比較テストを行うのは非常に難しいのです。これは誰にとっても同じことですが、僕たちは満足のいくセッティングを見つけられませんでした」

 フリープラクティスを通じて各チームが前進を果たすなか、当初の苦しい状況を考えれば琢磨も徐々に戦闘力を取り戻していった。その結果、予選の第2セグメント進出まで、ポジションにしてあとひとつ、タイムでは0.15秒差まで追い上げたことは立派な成果だったといえる。こうして、琢磨は13番グリッドからレースに挑むことが決まった。

「少しずつ、僕たちが進むべき方向が見えてきました。そして走るたびに状況はよくなっていきました。十分な速さだったとはいえませんが、昨年のソノマにおけるチームの状況を考えると、大きな進歩を遂げたといえるでしょう」

「レッドタイアが十分なグリップをもたらしてくれると期待して、僕たちは予選に臨みました。今回も、いつもと同じく大変な接戦となりました。第2セグメントに進出できなかったのはもちろん残念ですが、フィーリングは少しずつ改善されていました。それに、ある意味で13番グリッドはベストなポジションともいえます。なぜなら、第2セグメントに進めば、そこでもレッドタイアを使うことになるからで、11番グリッドや12番グリッドを手に入れるためにレッドタイアを使ってタイアの割り振りで苦労するよりも、その直後のグリッドから新品のレッドタイアをたくさん携えてスタートするほうが戦略的には有利だと考えられます」

「僕たちは、最初のスティントをプライムのブラックタイアで走り、そのまま集団に留まりながら走行してからレッドタイアに交換する作戦をよく用いますが、ソノマはオーバーテイクがとても難しいので、プライムタイアでスタートすることには大きなリスクが伴います。なぜなら、ひとたびレッドタイアを履くライバルたちに抜かれると、順位を取り戻すのは不可能に近いからです。でも、レッドタイアだったらポジションを守ることができるし、うまくいけば順位を上げられるかもしれません」

 スタート直後、この作戦はうまくいきそうな展開になり、オープニングラップで琢磨は11番手まで駒を進める。レース序盤のコーション・ピリオドでは、トニー・カナーンに対してリスタートでポジションを落としたものの、琢磨はすぐさまふたつ順位を上げてトップ10入りを果たした。別のリスタートではマルコ・アンドレッティやカナーンと好バトルを演じたのに続き、次にイエローが出るまでに9番手となり、非常に好調そうに思えた。

「ソノマでは信じられないほどオーバーテイクが難しいので、ほとんどの場合、チャンスがやってくるのはリスタートのタイミングとなります」と琢磨。「誰もがとてもアグレッシブでした。たくさんのクルマに、タイアと接触した跡が残されていて、僕はバトルを楽しみました! けれども、困ったことが起きたのは、その後のことでした」

 その事件は、3回目のリスタートでグレアム・レイホールがスピンしたことをきっかけにして起こった。カナーンとバトルをしていた琢磨はコース中央を走行していたため、完全に行き場を失ってしまったのだ。

「ターン1からターン2にかけて、3ワイドや4ワイドになりながら丘を駆け上がり、エキサイティングなバトルをしていました。ものすごく混み合っていましたよ! ターン3の進入でスピンしたグレアムはコース上に戻ってくると、横滑りしながら丘を登っていきました。TKと僕はサイド・バイ・サイドをしていて、レイホールのマシーンはコースの右側、僕は真ん中で、そしてTKは左側にいました。もしも僕が左に進路を変えていたらTKと接触していたことでしょう。したがって唯一の望みは、グレアムのマシーンがコースの外側に移動していって、僕がふたりの間をすり抜けていくことでしたが、そうはなりませんでした。僕はグレアムのフロントウィングに乗り上げる形となり、右フロント・サスペンションにダメージを負ってしまいます。とにかく、2台横並びになっていたので、まったく避けようがありませんでした」

 ピットに戻ってきたマシーンをAJフォイト・レーシングは懸命にリペアしたが、このため琢磨は大きく遅れたため、残り周回数はいくらかでもポイントの上乗せを狙うか、別のセットアップを試すために費やされることとなった。

「データ収集のためには、少しでも多く走行することが重要でした。いずれにせよ、僕はコース上に留まらなければいけなかったので、レースを戦っている他のドライバーには進路を譲らなければいけませんでした。それでも、時にコース上でオーバーテイクすることがありました。僕のマシーンがこのような反応を示すことにはとても勇気づけられましたし、ブラックタイアでもレッドタイアでもいいパフォーマンスを示すことができました」
 レース終盤、チャーリー・キンボールが琢磨のマシーンに突っ込むというアクシデントが発生し、これで琢磨の戦いは完全に幕を閉じる。「チャーリーはターン7の出口でスピンして、コースの真ん中に止まっていました。アクシデントを避けようとしてたくさんのマシーンがアウトサイドやインサイドに進路を変えていきました。僕はインサイドに行きましたが、ちょうどそのとき、彼はスピンターンを始めたのです! 本来、そんなことはすべきではありません。チャーリーのマシーンは進行方向とは180度逆を向いて止まっていたので、次々と迫ってくるマシーンの姿を彼は目の当たりにしたことでしょう」

 次のレースは、1週間後に大陸の反対側で開催されるボルチモア戦となる。この、東海岸の大好きな市街地コースで、これまでの身の毛もよだつような不運の連鎖に終止符が打たれることを琢磨は期待している。「非常にタフで、残念な結果に終わったロードコースのレースが2戦続いたので、ボルチモアのレースを楽しみにしています。ボルチモアでは、楽しくてエキサイティングなレースが毎回のように繰り広げられるので、まずはインディに戻って荷物をまとめ、大きな希望を持って旅立つことにします」

written by Marcus Simmons

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