スーパーGT300クラスやスーパー耐久をはじめ、日本国内でも多数のレーシングカーが輸入されているFIA-GT3規定車両。誰もが憧れる市販スーパースポーツがレーシングカーとなっていることはもちろん、独自の性能調整システムとコストキャップにより、安価ですぐに戦闘力があるレーシングカーが手に入ることから、世界中でこの車両を使ったレースが盛況となっている。では、その魅力はどんなものなのだろうか? 車種ごとに迫っていく。

 F1の名門コンストラクター、マクラーレンが設立した市販車部門であるマクラーレン・オートモーティブが手がけた3台目のロードゴーイングカーが、2011年に発表されたMP4-12C。1台目のマクラーレンF1(1991年)、2台目のメルセデス・ベンツSLRマクラーレン(2004年)と同じようにバタフライドアを採用する。

 エンジンはマクラーレンF1がBMW製の6リッターV12、SLRマクラーレンがAMG製の5.5リッターV8スーパーチャージャーと他社からの供給を受けてきたが、そこはMP4-12Cも同様に、イギリスのリカルド社が担当した。

 ミッドシップに搭載するその3.8リッターV8ツインターボユニットは、600ps&600Nmというパワー&トルクを絞り出す。これに組み合わされるギヤボックスはイタリアのグラツィアノ製7速デュアル・クラッチ・トランスミッション。その他、1ピース構造のカーボンモノセルとアルミフレームで構成されたシャシー、電子制御化されたサスペンションというのが、MP4-12Cを表す特徴的なスペックとなる。

 そんなMP4-12CのGT3仕様が発表されたのは、2011年5月のこと。すでにFIA-GT1世界選手権でも主役の座がGT1車両からGT3車両に移行していた時期であり、レーシングコンストラクターであるマクラーレンがMP4-12CにGT3仕様を用意するのは必然だったかもしれない。GT3は市販車をベースにチューニングを施し、セッティング箇所に制約を設けたり、他車との性能差を均一化する性能調整システム(バランス・オブ・パフォーマンス=BoP)を設定するなど、コストの高騰を抑えたカテゴリーとして設立された。アマチュアドライバーの参戦も多いヨーロッパにおいて、人気のクラスとなっているからだ。

 MP4-12CをGT3仕様にするにあたっての主な改良点は、エンジン冷却用ラジエターの追加、ギヤボックスをリカルド製の6速ミッションに交換、そして足まわりは電子制御を持たないコンペンショナルなダブルウイッシュボーンに変更。市販モデルではロールを油圧でコントロールしていたためにスタビライザーを備えていなかったが、GT3仕様では追加されている。

 また、ボディワークに関してはマクラーレンF1チームの空力部門が担当。幅広タイヤを収めるためにフェンダーも拡幅し、市販車のままで残されているのはルーフとドアくらいだ。フレームの骨格は市販車のカーボンモノセル+アルミフレームにロールケージを組み込んでいる。市販車としてはもちろん、GT3車両としてもカーボンモノコックはめずらしく、剛性値においてのアドバンテージは大きいだろう。

 このような仕様で2011年からテスト参戦を開始し、昨年からはヨーロッパを中心に本格的にレースに出場。特にFIA-GT1世界選手権ではCSRレーシング(エントリー名はヘクシス・レーシング)がMP4-12C GT3の開発チームとなり、毎戦のように改良を加えていった。その結果、当初はトラブルなどによるリタイアも続いたが、最終的には3回の優勝を果たし、シリーズ2位を獲得している。ちなみに、CSRレーシングは昨年末にマクラーレンのグループ会社となり、現在はマクラーレンGTという社名でMP4-12C GT3のカスタマーサービスを行っている。

 そして2013年、アジア圏でのデリバリーが開始されると、スーパーGTのGT300クラスに昨年まで紫電を走らせていたカーズ東海/ムーンクラフト陣営が、MP4-12C GT3での今季参戦を発表した。

 13年型は昨年のFIA-GT1世界選手権での戦いの中で、CSRが加えた改良やさらなる進化が果たされている。12年型からの主なアップデートは、高温のレースにも対応できるようにしたラジエターの容量アップとダクト類も追加したクーリング面の見直し、フロントスプリッターやリヤウイングといったエアロダイナミクスの修正、そしてECUの一新だ。

 なかでもECUはF1で使われているのと同じもので、すべての制御をひとつのECUが担うようになった。ムーンクラフトの渡邊信太郎エンジニアがマクラーレンから聞いた話によると、「演算スピードが速くなって、トラクションコントロールやスロットルマップ、ABSといったハイテクデバイスのドライバビリティは12年型よりも向上している」とのこと。ただし、まったく新しいECUとなったことで、小さなマイナートラブルは発生しているようだ。

 チームとして、昨年の12月21日に富士でシェイクダウンしたが、その時はトラブルシューティングに終始したという。それでも、昨年に現地でMP4-12C GT3のレースを見ていた渡邊エンジニアは、「当初、12年型からの導入も考えていたのですが、アジアでのデリバリーは今年からでした。でも、今思うとこれで良かった気がします。それぐらい、12年型から13年型への進化は大きい。昨年はMP4-12C GT3にとって、熟成期間だったと言えるでしょうね」という。

 2月7日、ドライで初めて全開走行できた加藤寛規は、「とにかくストレートスピードが速い。ターボならではの加速も強烈ですね。それでいてコーナリング性能も高く、特に中高速コーナーは動きがスムーズで、得意なコースは紫電と同じようにSUGOや鈴鹿になりそう」とのこと。また、雨の中でしかステアリングを握れていない高橋一穂は、「トラクションコントロールとABSという電子デバイス、そして直線の速さは自分の助けになる」という。セットアップの煮詰めはまだこれからだが、ともにポテンシャルの高さは感じているようだ。

 11年、12年とFIA-GT3車両がタイトルを獲得してきたスーパーGT GT300クラス。MP4-12C GT3の登場により、さらに激戦となるのは必至だろう。国内のGTではスーパーGTの前身、全日本GT選手権の時代、1996年にマクラーレンF1-GTRがドライバーズとチームのWタイトルを獲得している。“ハコ"のマクラーレンが再びチャンピオンとなれるか、期待したい。

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