2015年シーズン最終戦は、好調ニコ・ロズベルグがキャリア初の3連勝を飾り、幕を閉じた。対するルイス・ハミルトンも、負けて終わるつもりはなく、予選とスタートで後塵を拝したあとも、なんとか打開策を探り続けた。ハミルトン逆転の可能性は少なかったかもしれないが、違う展開も考えられたのか。アブダビGPのハイライトを無線から、もう一度ふりかえろう。

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「ストラテジスト(戦略担当エンジニア)は前を走るドライバーに最も理想的な戦略を与え、後ろのドライバーには2番目にベストな戦略を与える。それだけのことだよ」

 ブラジルGPでルイス・ハミルトンに「プランB」への変更を許さなかったメルセデスに対して、一部のファンの間では「自由に戦わせるべきだ」という声が高まっていた。極言すれば、理想の戦略はひとつしかない。前を走る者に優先権が与えられる、という原則は揺るがなかった。

 冒頭でハミルトンが突き放すように語ったのは、そういうことだった。しかしアブダビGPで自分がまたも同じような展開に直面するとは思っていなかったかもしれない。

「ルイス、このスティントを伸ばすことをトライしよう」

 33周目、ハミルトンのレースエンジニアであるピーター・ボニントンが伝えた。首位のニコ・ロズベルグが2回目のピットストップを終えた直後のことだ。

 スーパーソフトタイヤの第1スティントは、クリーンエアで走るロズベルグに分があった。しかしソフトに履き替えた第2スティントはハミルトンのほうが速く、タイヤをいたわる余力もあったのだ。

「もう1台(ロズベルグ)のタイヤは?」
「いまソフトを履いている」

 最も理想的なタイミングでピットストップを行ったロズベルグに対して、この時点でハミルトンには3つの選択肢が残されていた。

 定石は相手に呼応してすぐピットへ飛び込むことだが、これでは逆転のチャンスは皆無。だから、はなから選択肢から外れている。

 ひとつめの選択肢はピットストップを数周遅らせ、ロズベルグよりも新しいソフトタイヤで最終スティントにアタックを仕掛けること。ふたつめは、さらにピットストップを引っ張ってスーパーソフトの瞬発力に賭けること。みっつめが、ピットストップを行なわずに1ストップで最後まで走り切ること。

「このタイヤを最後までもたせるには、どのくらいのペースで走ればいい?」
「それは無理だ。ギャンブル過ぎる。ピットインするのが得策だ」

 食い下がってみたものの、リヤタイヤのタレを感じ始めていたハミルトンは説得をあきらめてペースを上げることにした。これで残る選択肢は、ふたつ。

「さっきのラップは良かったが、ニコと11秒差になった。このままではコース上で抜かれるぞ」

「ピットインしてフレッシュタイヤに交換だ」
「あと1周待ってくれ。ストラット12、次の周にピットインする。それが最適なタイミングだ。ロズベルグより10周若いタイヤで走る」

 41周目、ハミルトンはピットへ飛び込んだ。用意されていたのはソフトタイヤ。レースは残り14周。ハミルトンより2周早くピットインしたセバスチャン・ベッテルがスーパーソフトを履いたことを思えば、コンサバティブな選択だったかもしれない。

 ロズベルグの12秒後方でコースに戻ったハミルトンは、激しくプッシュしてロズベルグとのギャップを縮めていき、その差は6秒にまで詰まった。

 しかし残り5周を迎えたところで、ハミルトンの希望を打ち砕くような指示が出る。

「ストラットモード10、ニコはストラット6で走っている」

 パワーユニットのエネルギーマネージメントを含めたモードを、抑えめに切り替えろという指示だった。

 モンツァのエンジンブローで1基を失ったロズベルグは、パワーユニットのマイレージが厳しくなっていた。そのためアブダビで予選以外は大事を取ってコンサバティブなモードで走っていた。レース最終盤に異常なデータが出てきたのか、チームはさらに抑えたモードへの切り替えを指示。2台のマシンで不公平にならないよう、ハミルトンにも同様の指示を出したのだ。

「ストラットモード10、これは指示だ」

 すぐには応じなかったハミルトンに対して、ボニントンが厳しい口調で再度告げる。これでハミルトンはロズベルグ追撃をあきらめるしかなかった。

「第2スティントの最後も、まだタイヤは大丈夫だった。正直言うと、もしかすると最後まで走り切れた可能性もあったんじゃないかと思う。だけど、その後はチームの決定次第だった。最後までタイヤをもたせることができたかどうか、交換するにしてもスーパーソフトを履くべきだったのかどうか、それはわからない。レースを通してエンジンモードは(切り替えて)アップダウンしているけど、本当にそうすべきだったかもわからない。僕のエンジンは、まだまだライフ(寿命)が残っていたからね。心のどこかではチャレンジしたかったという気持ちがあるのは事実だ」

 チームとしてはワンツー・フィニッシュをふいにしない範囲内で最大限の自由を与えた。しかし予選でチームメイトに敗れ、チャレンジャーの立場となったハミルトンにとっては十分なものではなかった。数百億円をかけて戦うメルセデスとしてはチームの方針は絶対で、ハミルトンのステイアウトを認めたのは最大限の譲歩であったことは理解できる。それでもファンの本音としては、制約なく、両者が死力を尽くして戦う姿が見たい。

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