シンガポールGPでは、2台ともトラブルに見舞われながら巻き返してダブル入賞を飾ったトロロッソ。しかし、マックス・フェルスタッペンがチームオーダーを拒否するという“事件”もあった。ドライバーとチームの無線交信から、ナイトレースの裏側をお伝えしよう。
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「マックス、ポジションを入れ換えてくれ」
「ノー!」
レースエンジニアのセビ・プホラルからの指示に対して、マックス・フェルスタッペンは、はっきりと拒絶の意思を示した。この時点でレースは残り2周。
「マックス、とにかくそうしてくれ」
しかし、フェルスタッペンは譲らなかった。前には7番手のセルジオ・ペレスがいて、2台のトロロッソが15周以上にわたり、テール・トゥ・ノーズで追いかけていた。純粋なラップタイムでは2秒近く速いにもかかわらず、ストレートが伸びるフォース・インディアのマシンを抜くことは、なかなかできなかった。
「シナリオプラスを使って、彼を抜け」
ペレスを抜くため、パワーを最大限に出すモードを使う許可も出たが、それでも抜けない。そこでチームは後ろのカルロス・サインツJr.とポジションを入れ換え、彼にアタックさせようと判断したのだ。
「次が最終ラップ?」
「これが君のラストチャンスだ。レースはまだ終わっていない。ダメならカルロスにポジションを譲れ、あと2周だ」
チームが、そう判断したのには理由がある。Q3に進んだフェルスタッペンは予選で使った中古のスーパーソフトを履いていたのに対し、Q2でウォールにヒットしたサインツは残っていた新品のスーパーソフトを履いていたからだ。想定よりもデグラデーションが大きかった今年のシンガポールにおいて、4周新しいスーパーソフトの威力は決して小さくなかったはずだ。
しかし、フェルスタッペンは拒否。チームも、その意思を認めた。サインツが十分に接近しなかったためだ、とチーム代表のフランツ・トストは説明する。
「レース終盤にマックスはペレスと7位争いをしていたが、彼は抜けなかった。カルロスはセーフティカー時にトラブルが発生して順位を落としたが、彼のほうが新しいオプションタイヤを履いていたのでマックスに追いついた。だから、カルロスのほうがペレスを抜くチャンスが大きいと判断し、彼を先に行かせようとしたんだ。しかし、カルロスはマックスとのギャップを完全には詰められず(ペレス追撃の)力があることを示せなかったので、順位を入れ換える必要はないと判断した」
フェルスタッペンは「自分のポジションを譲る理由なんてないと思った。1周遅れからポイント圏内まで挽回してみせたんだから、8位にふさわしいと思うよ」と、悪びれる様子はない。
サインツは「自分にもアタックのチャンスが欲しかっただけで、自分もペレスを抜けなければポジションは返すつもりでいた」とチームプレーに徹しなかった僚友に、やや不満気だ。
「マックスがペレスをプッシュしていたけど、10周やって抜けなかったのを見ると、もしかすると1周だけでも僕がアタックしてみたほうが良いんじゃないかと思ったんだ。無理だったら、またマックスにポジションを戻すつもりでいた。僕は(オーバーテイクの)チャンスが欲しかっただけなんだ。でも、彼は僕にポジションを譲らないと決めた。あとでチームとして話し合うべきことだ」
レース最終盤、この判断の是非は分かれるところだが、それ以前に15周にわたってペレスに抑えられていたこと、そしてロータス勢とのバトルでも時間をロスしていたことを考えると、もっと早い段階でタイヤに余裕のあるサインツJr.を前に行かせるべきだったのかもしれない。
フェルスタッペンは前戦イタリアGPでも、レース終盤にセバスチャン・ベッテルやニコ・ロズベルグに追いつかれてブルーフラッグを振られた際に「行かせて、彼らの背後でDRSを使って走れ」というエンジニアからの指示に反抗。「でも彼は僕に追いついてないじゃないか」「同意しない!」と複数回にわたって指示を拒否していた。
そこに来て、このチームメイト同士のすれ違いと、それを許してしまったチーム。表面上はダブル入賞で結果オーライに見えるトロロッソだが、実は内部に火種がくすぶっている。