F1速報モバイルサイトで好評連載中F1うんちく講座。今回オフシーズン計5回の限定コラムとして、虎之介選手、一貴選手、可夢偉選手の元マネージャー有松さんにF1界の気になる裏事情を解説して頂きました!
第4回:ペイドライバーはFP1を走行しているが、FP2~3で走らないのはなぜ?
今年も複数名のドライバーがFP-1に出走しました。彼らの多くが“ペイドライバー”と評されてはいますが、言うまでも無く、F1のあらゆる公式セッションに参加するためには例え“ペイドライバー”であってもスーパーライセンスが必要です。
従って、誰もが前回の当コラムで説明した発給要件を満たしていなければならず、お金を払えば誰でもスーパーライセンスを発給されるわけではありません。ただし、発給要件のうち前回に説明した国際競技規則附則Lの5.1.2(F)の場合、これは、事実上and/or運用上の“暫定”スーパーライセンスでの出走と言っても良いでしょう。このケース、実際には、いかなる場合も“監視下”にあって、資格剥奪のリスクがある……ということなのです。
さて、FP-2や3に出走させないのには、パフォーマンス面の理由を挙げるのが合理的でしょう。タイヤテストのロングランを行なうFP-2や、金曜夜のデータ分析とシミュレーションを経て予選・決勝に向けたセットアップの最終確認を行なうFP-3は、レースドライバーが走らないことには、チームとしてパフォーマンス面で大きな不利を背負うことになります。
ですから、チーム経営陣としてはビジネスとしての割り切りで資金を持ち込む若手をFP-2まで走らせたいところかもしれませんが、パフォーマンスを最優先に考えるレース屋としてはFP-1のシートを切り売りするというのが最大の妥協点なのです。
暫定ライセンスでの出場が認められると前述しましたが、ではどういった実績があればこれが認められるのかというと、最終的にはこれはF1の運営を司る大御所たちが首を縦に振るかどうかにかかっています。つまり、F1委員会のメンバーに根回しをしておき、お互いにとって利益になるようにネゴシエーションしておくことが重要なのです。
こうした裏側での“貸し借り”は目の前の案件だけで決まることではなく、F1社会の中で何十年も共生してきている彼らの「あの時こうしてあげたよね、だから今回は協力してね」といったやりとりによって成り立っているのです。
そのネゴシエーションによっては、例外的なライセンスの発給や出走許可も充分にあり得るというわけです。もちろん、これは前述の(F)条項を適用した場合の話ですが。
ただ、F1ドライバーの若年化とペイドライバー増加への批判が高まり、こうした規則の強化が2016年以降のスーパーライセンスの発給要件から進められることにはなりました。
F1界には様々な規則やガイドラインがありますが、このように5.1.2(F)のように例外もまた多く存在します。
そして、例外を使ってF1にデビューするドライバーもいます。しかし例外を使えばその内容によってネガティブなイメージを一生背負って生きていくリスクもありますから、それが本当にドライバーやチームにとって良いことなのかどうかをよく考えて使わなりません。運用上、スーパーライセンス申請にあたっては、5.1.2(F)該当の件だけでなく、事前のやりとりによって申請を取り下げる事もあるくらいなのです。
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有松義紀(ありまつよしのり)
1990年代から国内外のレース界に関わり、高木虎之介のマネージャーとしてF1界へ。以降、99年のホンダF1参戦プロジェクトに携わった後、高木とともにCART、INDYの世界に身を投じたが、2005年からはトヨタの若手育成プログラムTDPでヨーロッパにおける若手ドライバーやチームとの法務関連業務を担当。
中嶋一貴と小林可夢偉をF1にデビューさせ、トヨタがF1から撤退しTMGとの契約が解消されてからも12年まで可夢偉のマネージャーを務めた。国内外のレースで活躍するアンドレア・カルダレッリの発掘・育成も氏の業績のひとつだ。