16日、スーパーGT第5戦インターナショナル ポッカ1000kmに先立ち公開された、2014年からのスーパーGT500クラス車両。16日の発表会では同時に、2014年JAF-GT500車両規則概要についても同時に説明されている。
14年からのGT500クラス車両は、2009年から交渉が行われてきた、DTMドイツツーリングカー選手権との合意により、DTM、そして2015年からグランダムとDTMが共同で開催する新シリーズと車両規則を統一させたもの。大筋では、2012年から投入されたDTM規定車両と目的を同じくし、世界の各地域で活用できるグローバル化を志したものとなる。
この新シャシー導入の第一の目的が、大幅なコスト削減による効率化。コスト増加の要因である空力開発競争を抑制するため、プラットフォームデザインを採用するほか、ウイング等の空力部品をはじめ車体パーツの多くを共通パーツ化。その数は60品目を超えている。
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●新GT500車両を語る前に、把握しておきたい現代のモータースポーツ
これまでのGT500車両は、車両外寸や駆動方式等それぞれに細かくレギュレーションが定められていたが、もともとの成り立ちからモノコックの製作や空力開発等、メーカーが独自に開発する部分が多く、車両コストだけでも1台ウン億円以上と言われていた。また、ライバルに打ち勝つべく、シーズンを通してさまざまな追加の開発が行われてきた。
また、これまでスーパーGTの前身であるJGTC時代を含め、クルマという道具を使うスポーツであるがゆえの不満が多く発生してきた。エンジン排気量による差、駆動方式による差……。性能調整を行えば行われた側から不満が噴出し、メーカー間で多くの応酬が行われてきた歴史がある。2009年から採用されている3.4リッターV8エンジン、FRレイアウトのGT500車両規定の導入も、これらの歴史を繰り返さないためのものだ。
もともと日本のレース界では、メーカーがレース活動に出費する際、その多くは研究開発の費用として捻出されてきた。活動費用は多くが車両の開発に回され、直接ファンサービスやプロモーションに回される金額は必ずしも多くはないと言われていた。
ここはヨーロッパとの決定的な差で、ヨーロッパではブランドイメージを存分に活用した清潔感あふれるホスピタリティやブースが立ち並び、メーカーあるいは市販車のイメージアップが目指されるのが当たり前であるのに対して、日本では最近こそ各メーカーの注目市販車の展示があるが、必ずしもプロモーションの点では十分とは言えない。熱心なモータースポーツファンならば、研究開発が進められ、アップデートされたマシンを楽しむのもいいかもしれないが、それは極めてマニアックな楽しみ方でしかない。
一般のクルマ好きやライト層のためにモータースポーツをより広く認知し、メーカーのブランドイメージを上げ、広告宣伝に使うのはいまや世界の常識だ。メーカーには下げたマシン開発費用を、プロモーションやサーキットでのファンサービスに充てて欲しい。これがGTアソシエイションとしての狙いなのだろう。巨額の資金を投入し、勝った時だけアピールしているような時代ではない。これからのモータースポーツは、ブランドやベース車両のスポーツイメージを向上させるとともに、シリーズに参加したメーカーはまた、シリーズを他社とともに盛り上げるための責務を負っている。これらの考え方を前提に置くと、2012年からDTMが導入したこの車両規定の“意味”が見えてくる。
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●市販車のイメージを損なわないデザイン
新GT500車両のボディワークについては、“デザインライン”と呼ばれる線から下の、車体下部の部分を、規則に従い自由に開発することができる。バンパーやフェンダー、ドア下側やリヤフェンダー、リヤバンパーに至る部分だ。そのデザインラインから上面は、ロードカーから成るオリジナルの形状を維持することが求められる。
これらの考え方は、DTMに参戦するBMW、アウディ、メルセデスベンツという3メーカーが強く意識する部分だ。車体のデザインや、メーカーのアイデンティティを主張するグリル、ヘッドライト、サイドウインドウの部分に手を付けることはまったくしない。これまでのGT500車両ではフェンダーは多くの空力開発を行う事ができる部分だったが、新規定では最小限の張り出しに留められる。ただし、それだけにこの部分の処理は重要な部分とも言える。
なお、ボディワークについては重要なレギュレーションがもうひとつある。リヤフェンダー前端のラインから後方の車体内に、空気が流れてはいけないと規定されている。つまり、車体前端から取り入れた空気は、フロントフェンダー後端下部からサイドのデザインライン下部を通し、うまく排出しなければならない。サイドの空力処理が非常に重要とされているのだ。
この点では、16日に発表された3車種は、どれも大きく異なる処理をしてきた。“正解”がまだ見つからないのか、車種によって異なるのか、発表会向けの暫定仕様なのか。今後注目していきたいポイントだ。
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●60品目を超える共通部品。ブレーキ等も共通
フロアも、これまでのGT500車両と異なり、共有形状が求められる。フロントアクスルから後ろがフラットフロアとされ、スキッドブロックを装着。ディフューザーに至るまでの形状は全車共通。これまでのような各車で異なるようなディフューザーはもう見られない。
また、共通部品は先述のとおり60品目以上。ブレーキ等も共通化されたため、発表会では全車に『AP RACING SGT』という刻印をキャリパーに見ることができた。その他にもダンパー等も共通。リヤウイングも共通化されているが、標準仕様に加え、スーパーGTではロードラッグの富士仕様が用意される予定だ。
モノコックについては、DTMと共通の仕様であるため、ドライバーの着座位置はすべて左。形状もDTMと同じだが、スーパーGTでは国産にこだわり、東レカーボンマジック株式会社がすべてのメーカーのモノコックを製作する。これに、高い安全基準をクリアした衝撃吸収構造体が付く。
なお、ロールケージもすべて同じ形状が求められる。これを収めるため、DTMではほぼ全車が同じようなルーフ形状となっている。新GT500車両も、かなり近い形状となったと言えるだろう。
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●ここは日本オリジナル。熱効率向上を目指すエンジン
来季からのスーパーGT500クラス車両において、DTMと大きく異なるのがエンジンだ。『NRE』と呼ばれる日本発の新レース専用エンジンを搭載する。2リッター直4直噴ターボエンジンで、エンジンの熱効率を向上。軽量化を実現し、今の時代に即したダウンサイジング化を達成している。また、ユニークな燃料リストリクターを装備。レースで培われた環境技術を市販車へ展開していく。
これらの技術は、熱効率をいかに上げるかで勝敗に直結する部分となり、メーカーにとっては技術力の高さをアピールする機会となる。熱効率向上が結果に直結するという部分では、来季からのF1パワーユニットと同じ目的を持っていると言っていいだろう。
なお、今回のGTAからの発表では、NREの他カテゴリーへの流用の可能性も明記されている。
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●NSXは圧倒的に不利!?
こうして出来上がった新GT500車両は、ニッサンが従来と同じGT-Rで、ホンダは新たに市販に向けて準備を進めているNSXコンセプト-GT、レクサスは昨年9月、パリモーターショーで発表した2ドアクーペコンセプトモデル『LF-CCをベースとした新型レース車両』という3車種で製作された。
この中で、最もDTM車両と異なる開発が行われたのは、ホンダNSXコンセプト-GTだ。市販予定のNSXがミッドシップ車両で、ホンダ伊東孝紳社長自ら「NSXでスーパーGTに出たい」と明言したため、この意志を尊重するべくミッドシップで、かつ市販NSXにも搭載予定のハイブリッドシステムを搭載して開発されたのだ。
ただし、このNSXはミッドシップだから有利かというと、まったくそうではないという。これまで述べてきた新GT500車両のレギュレーションはすべてFRレイアウトが前提。「FR用の共通モノコックを使いMRマシンを設計するのは容易ではなく、無理があると言っても過言ではありません。パッケージングと重量配分を考慮したレイアウトにはとても苦労しました」というのは、松本雅彦ホンダGTプロジェクトリーダー。
「特に、共通モノコックを使用した上で、MRならではの特性とフォルムを作り出し、市販されるNSXとイメージを一致させることは、大変難しい仕事でした。そして、性能的にFRと肩をならべるには、今後もまだまだ詰めていく必要があります」
このNSXコンセプト-GTに対する性能調整は、今後のGTアソシエイションにとっての課題とも言えるだろう。