鈴木亜久里率いるスーパーアグリが再び世界へ飛び出していく。同F1チームの盛衰を見てきた私としては、鈴木の再挑戦を放っておくわけには行かず、スーパーGT最終戦が行われたツインリンクもてぎで鈴木を直撃、話を聞いた。ただ、断っておかなければならないのは、スーパーアグリの今度の世界挑戦はF1ではなくフォーミュラE。来年から始まるFIAによる電気自動車(EV)の世界選手権だ。
FIAフォーミュラE選手権は、2014年9月から年をまたいで最初のシリーズが幕を開ける。初シーズンは2014年9月から2015年6月までの10戦で行われ、開催地はロンドン、ベルリン、ローマ、モンテカルロ、ロサンゼルス……など主要国の大都市公道レースとなる。大都市で公道レースとして行われる理由は、都市部の大気汚染問題への対策などを訴えるためで、開幕戦の行われる中国・北京などは、まさに打って付けの場所と言えるだろう(中国当局の受け取り方、大気汚染への取り組み姿勢にもよるが……)。
鈴木亜久里にこのフォーミュラEへの参戦を決めさせたのは、かつてスーパーアグリF1チームで働いていたマーク・プレストン。彼は現在イギリスでカーボンコンポジットの会社「フォームテック・コンポジット」を経営しており、自動車業界、モータースポーツ界、航空産業界にパイプを持っている。そのプレストンがフォーミュラEに興味を持ち、鈴木に声をかけてきたのだ。「技術的なことはこちらでやります。チームとしての参戦をぜひ亜久里さんのところでお願いしたい」と。
鈴木はこのプロジェクトを開始するにあたってこう言う。
「僕はいろんなモータースポーツに携わって来ましたが、将来のことを考えるとフォーミュラEは大変に重要なポジションを担うカテゴリーだと思いました。かつて一緒に仕事をしていたマークが凄く真剣で、じゃあ一緒にやろうということになったんです。マークは素晴らしく正直な人間で、技術に対しては深い造詣を持っている。その彼と、これからの自動車社会を担っていけるような技術を持って展開するレースなら、是非やってみたいと思った。やらなければならないと思ったんです」
実は2012年8月にFIAがフォーミュラE選手権シリーズ設立を発表したとき、日本からもトムスを始めいくつかの参戦希望者(社)があったという。しかし、FIAは初年度に参戦出来るチーム数を10に絞ったため、それらの参戦希望は叶えられず、当初からプレストンが準備していたスーパーアグリ・チームが参戦を受理された。これは、グローバルに名前の知られたスーパーアグリの方がフォーミュラEの進展のため(知名度向上のため)にも好都合とFIAが計算したとも考えられる。鈴木亜久里はF1では躓いたが、その時に蒔いた種から芽が出て来たということだろう。
フォーミュラE参戦には供託金1億5000万円が必要で、シーズンを通しての経費は上限3億円に抑えられている。クルマはワンメイク(初年度のみ。2年目以降は自製マシンでも参戦可)のフォーミュラで、スパーク・ルノーSRT_01Eと呼ばれる。プロトタイプが先のフランクフルトモーターショーに展示されていたが、完成度の高そうなクルマだった。
パワートレインは一社ではなく、いくつかのサプライヤー(モーターはマクラーレン、バッテリーはウイリアムズ……等)から供給されたパーツを組み合わせて作られ、その技術監修はルノーが担当する。ルノーはこうした将来技術等の開発、展開、あるいは新事業への参戦などに昔から積極的だ。フランス人はヌーベルバーグが大好きだから先物買いを狙っている感もあるが、まあルノーの監修ということであればこのシリーズが眉唾物ではないという信頼もおけるとみた。
鈴木亜久里のチームのエントリー名はスーパーアグリ・フォーミュラEチーム。参戦は1チーム2台体制。ただ、約1時間のレースの途中でバッテリーがなくなるため、ドライバーはレース中にマシンを乗り換えることになる。つまり1チームに4台のクルマが必要になるわけだ。また佐藤琢磨が乗るのかなあ?
最後に鈴木亜久里はこう言った。
「このレースは将来のモータースポーツには必須のカテゴリーです。スポンサーを探していますが、環境を考えたり、将来の動力源を考えている企業には打って付けのレースだと思います。多くの企業が支援してくれることを期待しています」
将来、自動車メーカーも参戦を余儀なくされるであろうこのフォーミュラEレースに目をつけた鈴木亜久里。先見の明ありやなしや? 電気系統のトラブルで参戦断念てなことにならないようにお願いしますよ。
赤井邦彦(あかいくにひこ):世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。
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