「ちょっと、どうしたんだい?」と、言いたいのを我慢してきたが、そろそろその我慢も限界にきたので、異論や叱責があることを承知で言わせてもらうことにした。しかし、ここまで我慢すると、「ちょっと、どうしたんだい?」ではもう済まない。ハッキリと言わせてもらうと、「日本人ドライバーは一体何をしているんだ!?」という怒りにも似た気持ちだ。

 この怒りを爆発させるきっかけになったのは、先週末に行われた第60回マカオGPの結果を知ったことだ。私が最後にマカオGPの取材に出掛けたのは松浦孝亮が参戦した時だからもう随分前のことになる。しかしここ数年、友人のジャーナリストが取材に出掛けており、詳しい情報が入ってくる。そして、今年もその友人がはるばるマカオまで出掛けたのだが、彼から入ってきた情報で私はもうガックリコンなのである。なにがガックリコンなのかと言えば、そう、冒頭に書いた通り「日本人ドライバーは一体何をしているんだ!?」ということだ。

 今年のマカオGPを走った日本人ドライバーについては、私は誰ひとり個人的に知らない。取材もしたことがない。しかし、仮にも天下のマカオGPに参戦しようという心意気のあるドライバーである。何が何でも優勝をもぎ取ってやるという気持ちで出掛けたはずだ。それがどうだ? 予選からふた桁グリッドに並び、決勝レースでは誰ひとり10位にさえ入れない。英Autosport.comのマカオGPレポートには、日本人ドライバーの名前はひとりも出てこない。かすりもしない。こんな屈辱的なことがあっていいものだろうか?

 昔は、と言うと「また年寄りが!」と言われるかもしれないが、少なくとも昔はマカオGPでは日本人ドライバーが速さを見せつけた。何年だったか忘れたが、長谷見昌弘さんは予選5番手からスタートし、なんと1周目をトップで戻って来たことがある。結局エンジントラブルか何かでリタイアに終わるのだが、その走りは凄まじかった。相手はリカルド・パトレーゼやジェフ・リースといったヨーロッパ生え抜きで、後にF1に上り詰める多くのドライバー。彼らを相手に一歩も引かなかったのだから凄い。これは、私がピットでサインを出す手伝いをしていたのだから嘘ではない。佐藤琢磨の活躍は記憶に新しい。彼は2000年と2001年にマカオに挑戦し、初年度はリスボアコーナーでスタート直後にクラッシュ、しかし2年目は見事に優勝を飾った。日本人ドライバーとしては初の快挙だった。その後、2008年には国本京佑も勝っている。

 マカオGPはかつてはF1への登竜門だと言われた。マカオで勝てない奴がF1なんか口にするな、ということである。その点では佐藤琢磨は合格者だが、困ったことに彼の後に続く者がいない。これが私には不思議なのだが、若いドライバーはマカオに行って「世界から集まる同じ志を持った奴らを蹴散らしてやろう!」、とは思わないのだろうか? そこで素晴らしい走りをすれば、ヨーロッパのレース関係者からアプローチがあるかも知れない。実際、私が長谷見さんと出掛けたマカオでは、彼の走りに感激したセオドールF1チームのオーナー、テディ・イップ氏から声がかかった。残念ながら当時の日本ではスポンサーが見つからず長谷見さんのF1挑戦は夢と終わったが、チャンスは転がっていると感じた。

 もちろん長谷見さんの時代と現在ではレースを取り巻く環境が違うので、一概に比べるわけにはいかない。現在の日本のトップクラスのドライバーたちは自動車メーカーと契約して安泰した生活を送っている人が多く、いまさら世界に飛び出していく気持ちになれないのかも知れない。しかし、若いドライバーはその限りではないだろう。狭い日本を飛び出して世界へ挑戦した方がいい。

 そこで、自動車メーカーにお願いしたいのだが、若く才能あるドライバーがいても、縛り付けないでほしい。若く才能があるドライバーが欲しいのはどこの自動車メーカーでもチームでも同じだが、その若いドライバー自身も自分の才能は自分で花開かせたいと思っているはずだ。支援はしても縛り付けない。そんな都合の良いことができるはずはないと言う自動車メーカーもあるだろう。だが、今マカオで走っている海外の若いトップドライバーたちは、ヨーロッパの自動車メーカーの支援を受けながら、他社のエンジンが積まれたクルマでマカオを走っているのだ。日本の自動車メーカーにもそれぐらいの懐の深さがあってもいいのではないか。

 とにかく今、世界に飛び出していく日本の若手ドライバーは不作である。ヨーロッパのモータースポーツ誌に名前が取り上げられるのは、AutoGPで戦う佐藤公哉、フォーミュラ・ルノーの笹原右京等数人のみ。そして彼らはこれまで日本の自動車メーカーの関わる若手ドライバー育成プログラムからは距離を置いてきた者ばかり。つまり、これまで日本の自動車メーカーが若手ドライバーの芽を摘んでいたということなのだろうか? う〜ん。

赤井邦彦(あかいくにひこ):世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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