フォルクスワーゲン(VW)の取締役会長(1993〜2002年)、監査役会長(2002〜2015年)を長く務めたフェルディナンド・ピエヒが辞任して、いよいよVWブランドがF1に参戦するという噂がモータースポーツ界を賑わせている。

 VWグループは多くの自動車ブランドを有するコングロマリットとも呼べる企業体だが、その核をなすのはVW、アウディ、ポルシェの3大ブランドだ。現在これらのブランドは、VWがWRC(世界ラリー選手権)、アウディはWEC(世界耐久選手権)とDTM(ドイツツーリングカー選手権)、ポルシェはWECでモータースポーツ活動を行っている。

 VWブランドがF1へ出て行く噂は数年前からあり、その先鋒はアウディということだった。アウディはル・マンを始めとする耐久レースで連戦連勝の大記録を打ち立て、次のステップを模索中だと伝えられた。そして、その噂を後押ししたのがポルシェのWEC参戦で、それが実現した今、同じVWグループの中から2社が同じシリーズに出て行く意味はないだろうとの見解が語られた。ポルシェがWEC、アウディがF1と言われたのはそうした理由による。まあ、理論的には筋道が通っている。

 ただ、アウディとポルシェは同じVWグループだとはいえ、それぞれ独立した企業。そして、それぞれがWECを非常に効果的なPRの場と認識して活動をしている。WECが自動車メーカーの支持を得るのは、技術の自由な競争域を残しているからだ。あらゆる種類のパワーユニット採用を許しながら性能を均一化させることで戦いを面白くする。ディーゼルエンジンのアウディ、ターボエンジンのポルシェが同じ土俵で戦えるのもそのレギュレーションゆえだ。そこにアウディもポルシェもWECで戦うことに価値を見いだしている。ましてやクルマの形状もフォーミュラと比べると市販車に近い。そして、アウディがWECから撤退しない決定的な理由は「ポルシェが勝ってもアウディは売れない」というアウディ・チーム代表の言葉だ。アウディが売れるためには、WECでアウディがポルシェを破ることが重要なのだ。戦いの場にグループ意識はない。

 以前、当エフワン見聞録でピエヒ元会長がポルシェをF1に送り出したい意向があると書いたが、これには条件があった。バーニー・エクレストンの勇退だ。ピエヒ元会長はエクレストンが主導する商業主義丸出しのF1に我慢が出来ず、彼がF1を牛耳るのを辞めればVWグループとして参戦したい、との意向を持っていた。そしてそこには、F1が自動車メーカーにとって技術的意味を持つという理由が欲しかった。

 ところが、エクレストンが辞める前にピエヒ元会長が辞めてしまった。このきっかけでVWグループのF1参戦が再び噂に上ったのは当然といえば当然だろう。そしてそこには幾つもの伏線があった。

 まず、ピエヒ元会長の後継者として名前の挙がっているVWのマルティン・ビンターコンCEOはかつてアウディの会長で、モータースポーツ活動の推進者。アウディがWEC及びDTM活動を活発に行えるのは彼のおかげとか。そのヴィンターコルン氏がVWグループ全体を見るようになれば、アウディ、ポルシェのF1活動の噂も真実味を帯びるということだ。

 中でもアウディのF1参戦がポルシェに増して語られるのは、昨年末にアウディが雇用した3人のF1経験者のせいだろう。ひとりはフェラーリの元チーム代表であるステファノ・ドメニカリ、ふたり目はBMWやウイリアムズでエンジニアを務めたヨルグ・ザンダー、3人目はフェラーリのシミュレーター・エンジニア、ガブリエル・ドリフリ。F1への参戦が念頭になければ、こうしたF1経験者のリクルートは何を意味するのだろうか?(ただし、スパ・フランコルシャンで行われたWECの会場で、アウディ関係者はF1参戦を再び否定した)

 さて、ピエヒ元会長が去ったVWグループのF1参戦はあるのか? あるとしたらそれはいつのことか? 2018年という噂は、はたして真実なのだろうか? また、その時に出て来るのはアウディか、はたまたポルシェか?

赤井邦彦(あかいくにひこ):世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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