もう見聞録は終わったんだと思っていた読者の皆さん、実は私もそう思っていたのですが、どっこい終わってはいませんでした。実は編集担当からの催促がある時期を境にぷっつりと来なくなったので、勝手に終わったと思っていただけでした。「何度催促しても、ハイ書きます、という返事だけで・・・」と、担当は小言を言います。よくよく考えてみると私が悪い。怠慢以外の何物でもない。そこで反省して、これからは月に1〜2本は必ず書くようにする、と約束いたします。別に誰も待っていないだろうけど。

 で、その再開(と自分で勝手に思っているだけですが)第1回目は、フォーミュラEの裏話です。えっ、F1じゃなくまたフォーミュラE?って言わないでください。こっちの方が結構話題が豊富なんです。

 フォーミュラEは、すでに第2シーズンが始まっているのですが、来年の7月に行われる予定の最終戦ロンドンePrixの開催場所などの詳細が、つい最近まで正式発表がなされない事態に陥っていたのです。ロンドンという都市名だけで、会場が特定されていませんでした。

 実は、第2シーズンのロンドンePrixも第1シーズンと同じバターシー公園が候補に挙がっていました。FEH(フォーミュラEホールディングス)はその予定で計画を進めていました。ところが、思わぬところから反対の声が上がったのです。周辺の住民の一部が、「うちの裏庭でレースカーなんか走らせないでよ」と騒いだのです。反対の声を上げた人の多くは老人です。若者は大方賛成でした。公園の周辺に住む30万人の住民のうち、反対は約1万人ほどでした。とは言っても、29万人が全員賛成というわけではないところが難しいところです。

 1万人の住民が反対の声を上げたとなれば、議会も放ってはおけません。そこで、バターシー公園を地区内に持つワンズワースの議会が動きました。議会で議決を採るのが民主主義というものだと、イギリス国民が知らないわけはありません。議会制民主主義が生まれたのがイギリスですから(議会制民主主義の問題点はまた別の機会に述べるとして)。そこでバターシー公園を管理するワンズワース地区の議会が議題に諮り、議員投票をした結果、全議員11人のうち賛成7人、反対4人でバターシー公園での開催が決定したのです。

 イギリスはモータースポーツに対する理解が非常に深い国です。議会を構成する議員の多くがモータースポーツ好きであっても不思議ではありません。そんなこんなでフォーミュラE第2シーズン最終戦ロンドンePrixも無事バターシー公園を舞台に行われることになりましたが、実は問題がすべて解決というわけではありません。まず、ロンドンePrixの主催者の仕事振りがやり玉に挙がっています。第1シーズンのレース(今年6月開催)の後片付けがなんとつい最近の11月までかかり、公園を使おうとした人たちから大顰蹙を買ったのです。

 確かに、公園内の道路を使って設営されたコースは、観客の安全確保のために全周をコンクリートのブロックで囲ったのですが、その撤去が大変だったことは理解出来ます。公道コース設営の最大の課題がこのコンクリート壁の設置と撤去でしょう。加えて、公園内の道路にタイヤのブレーキ痕が沢山残ることも問題にされています。FEHは住民やボランティアと一緒にそのタイヤ痕を消さなければなりません。まあ、そういう細々した問題が、反対派の指摘するところだったのでしょう。

 しかし、ワンズワース議会が議題に採り上げてまでバターシー公園でフォーミュラEレースを開催したかった理由を探ると、公園の使用料としてFEHから自治体に入る3600万円を捨てられなかったという点もあげられます。いずれにせよ、紆余曲折はありましたが、第2シーズンのロンドンePrixは2016年7月2、3日に開催されることが決定。関係者はホッと胸をなで下ろしました。

 最後におまけの話。バターシー公園でのレース開催に反対した人たちは、「ロンドンには公園は幾つもあるんだから、他の公園でやればいいじゃないの」と自治体に詰め寄ったらしいのです。そしたら自治体のある人が、「ロンドンには公園は幾つもあるんだから、たまには足を伸ばして他の公園に行ったらどうですか。健康のためにも良いですよ」と答えたとか。

 日本でも早くこうしたトピックが語られるようになればいいですね。

赤井邦彦(あかいくにひこ):世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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