復活したマクラーレン・ホンダの活躍を甘口&辛口のふたつの視点からそれぞれ評価する連載コラム。レースごとに、週末のマクラーレン・ホンダのコース内外の活躍を批評します。今回は、スパ・フランコルシャンでの第11戦ベルギーGPを、ふたつの視点でジャッジ。
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甘口編
エンジン本体はノートラブル
燃焼効率も改善果たす
第7戦カナダGPに続いて、ホンダがトークンを使用した改良型パワーユニットを第11戦ベルギーGPに投入してきた。カナダGPではターポチャージャーとMGU-Hに合わせて3トークンを使用。今回はICEに3つのトークンを使用した。
現在のF1のパワーユニットはエンジン(ICE)単体の馬力に2つの回生エネルギーのパワーが上乗せされて動力として作動する。そのうち、MGU-Kのパワーは1周で使用できるパワーが160馬力までに制限されているから、パワーユニットの差はそれ以外、つまりエンジン単体か、もうひとつの回生エネルギーとなるMGU-H(ターボ熱を利用した回生エネルギーシステム)によって生まれる。
回生エネルギーのパワーはエキストラパワーとして使用されるが、常に動き続けているエンジン本体のパワーは常時、使われることになるので、この分野でのパワーアップは非常に重要な要素となる。また現在のレギュレーションでは1レースで使用できる燃料が100kg以下に定められ、さらに燃料流入量も時速100kgに制限されているので、燃焼効率を向上させたパワーアップは、同時に燃費の改善にもつながる。ハイブリッドエンジンは電気の力もあなどれないが、やはり動力の根源となるエンジンそのものの性能向上が長い目で見た場合、重要なファクターとなるのである。
そして、ベルギーGPではトークンを使用した改良したエンジン本体に、まったくトラブルが起きなかった。土曜日のフリー走行3回目でフェルナンド・アロンソのパワーユニットに起きた問題は排気系であり、排気管を交換した後、問題が再発しなかったことを考えると、エンジン本体の改良とは関係のない、排気管そのものの製造過程に問題があった可能性がある。エンジン本体に問題がなかっただけでなく、ホンダのエンジニアによるデータ解析では、ベンチテストと同様の改善がコース上の走行データからも確認できたという。
エンジン本題の燃焼効率の改善は、燃費の改善にもつながった。開幕戦ではレース終盤に燃費モードでのレースを余儀なくされたジェンソン・バトン。さらにカナダGPでもレース序盤、バトルしていたアロンソに対して、燃費をセーブする指令を無線で飛ばしていたホンダが、燃費が厳しいスパ・フランコルシャンでのレースで、「燃費はまったく問題なかった」(新井総責任者)と語っていた。
では、なぜその改善が、コース上のパフォーマンスとして発揮されなかったのか。それは、スパ・フランコルシャンのコース特性にある。1.6リッターV型6気筒エンジンの馬力は約600馬力、これにMGU-Kの160馬力が上乗せされるが、MGU-Kは1周で使用できる時間が33.3秒に制限されている。全開区間が約70秒あるスパ・フランコルシャンでは、コースの途中でMGU-Kで作り出した電気エネルギーが枯渇するのである。そこで差が出るのは、MGU-Hによるパワーだ。MGU-Hで発電した電気は、ダイレクトにMGU-Kに送れば、MGU-Kに課された制限に縛られることなく、「プラス160馬力」の恩恵を受けることができるのである。
ベルギーGPのホンダは、この分野でライバル勢に後れをとっていたことがラップタイムの差として明確に出たわけである。したがって、全開率が高い次のイタリアGPと日本GPも苦しい戦いを強いられるだろう。しかし、直角コーナーが連続するシンガポールGPは、回生エネルギーによる差が出にくいため、コンバクトなパッケージングをしたマクラーレン・ホンダの運動性能が発揮されるのではないかと考える。
もちろん、メルセデスAMGに対抗するためには、今後はこの分野の課題も克服しなければならないが、改良に制限がかけられている現在のF1では、すべてを一気に改善することは不可能で、トークンを使用しながら、階段を一段ずつ上がるしかない。今回はそれが燃焼効率の改善であり、それはスパ・フランコルシャンという、19戦あるグランプリの中でも特殊なサーキットでは、パフォーマンスとして見えにくかっただけ。確実に階段は上っている。
ホンダ辛口評価編:「恥ずかしいレース!」
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