復活したマクラーレン・ホンダの活躍を甘口&辛口のふたつの視点からそれぞれ評価する連載コラム。レースごとに、週末のマクラーレン・ホンダのコース内外の活躍を批評します。まずはデビュー戦となった開幕戦を、ふたつの視点でジャッジ。

甘口編

電子制御の問題は覚悟の上
ポテンシャルはすでにフェラーリ並にある

「オフシーズンのわずか12日間の実走テストで、BBW(ブレーキ・バイ・ワイヤ)の制御を完全にコントロールするのは、かなり無茶な作業だ」

 これは昨年の開幕戦で、あるチームのエンジニアが語っていた言葉である。その証拠に昨年の開幕戦ではブレーキングでロックしてタイヤスモークを上げたり、止まり切れずにコースをショットカットするマシンが相次いだ。最悪のケースだったのが、ケータハムのマシンを駆ってスタート小林可夢偉のマシンが1コーナーのブレーキングで突如制御不能となってマッサのマシンに追突した事故だった。

 それから1年後のアルバートパーク・サーキットで、7年ぶりにF1に復帰したホンダが開幕戦でこのBBWに苦労したのは、ある意味、ごく自然のことと言える。ホンダだけが不具合を発生させているわけではなく、この問題はF1マシンという特殊な車体、そして電圧・高電流で瞬時にエネルギーの入力・出力を繰り返すパワーユニットを開発していく上で、だれしもが必ず通らなければならない難関なのである。そして、その問題は経験とともに昨年はどのチームもそれなりに解決していたことを考えれば、ホンダが解決できない理由はない。

 そもそも開幕戦でBBWの不具合を解決できなかったのは、ウインターテストでこの部分の制御をほとんどテストしていなかったからだと思われる。ホンダがテストで最重要課題として取り組んでいたのは、3月2日にホモロゲーション(認証)用として提出するスペックとして使用する部品のテストだったと思われる。パワーユニットを一度、認証してしまうと、その後、大きくスペックの変更が行えない。今季のホンダはリヤがかなりタイトに絞り込まれたチャレンジングなパワーユニットを投入してきた。そのパワーユニットをどこまで攻めた仕様でホモロゲーションするかをホンダはテストしていたのである。

 したがって、開幕戦でBBWの制御が後手に回ってしまったのは、本人たちもある程度、覚悟していたことだった。だから、彼らは慌てることなく、開幕戦をBBWの制御のデータを取るためのテストの場に変えたのである。そのためには、パワーユニットのトラブルでマシンを止めてはならない。そこでホンダはブレーキング時に稼働させるMGU-Kのモーターの仕事量を大きく減らして、BBWを油圧ブレーキ側に振った協調制御を行うという決断をオーストラリアGPの週末に下して、予選とレースを戦った。

 現在のMGU-Kの最大出力は、120kWと2013年までの2倍になり、パワーに換算すると161馬力にものぼる。それをどれくらい制限していたかは不明だが、もし半分だったと仮定すれば、約80馬力ロスしていたことになる。現在のF1マシンの10馬力あたりのタイム感度は約0.2秒。つまり、1.6秒遅い計算となる。

 MGU-Kの制限はタイムだけでなく、燃費にも大きく影響していた。現在のF1のレースで100kgしか燃料が使用できない。それでも2013年並みのタイムで完走できるのは、MGU-KとMGU-Hのふたつの回生エネルギーをエンジンの駆動力以外に使用しているからである。しかし、このうちMGU-Kをフルパワーで使用できなかったホンダはスタート時から燃費が厳しく、パワーセーフモードで走行するしかなかった。

 バトンが56周目に記録した1分33秒338は、そういう状況で叩き出した自己ベストタイムである。トップのハミルトン(メルセデスAMG)から約2.4秒遅れは、想定内。表彰台を獲得した3位のフェラーリ・ベッテルの1分31秒457はすでに射程圏内といってもいい。

 もちろん、その前にホンダはBBWの制御を完璧にプログラムすると同時に、MGU-Kをフルパワーで使用できるよう、熱対策を万全にしなければならないという課題はある。しかし、マクラーレンMP4-30と、それに搭載されているホンダのパワーユニットRA615Hは、ポテンシャルは現時点ですでにフェラーリ並みだと推測する。あとはBBWの制御と、空力のアップデートをどこまで進めることができるか。開幕前に予想していた今シーズン中の勝利を、2周遅れに終わったメルボルンで、むしろ確信した。

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