午後8時過ぎ、2日目のテストが終わって暗くなったフェラーリのガレージ裏で、浜島裕英エンジニアがタイヤラックに積まれた何セットものタイヤの表面をチェックしていた。57周の決勝周回数を走破した4セットのタイヤ。フェラーリはこの日、ついに今年初めてのレースシミュレーションを行い、走破したのだ。
「途中でトラブルが出てしまったせいで走りながらマシンに施す設定変更の面で少し妥協をしなければならなかったから、本当ならもう少し良い走りができたはずだったんだけどね。でも途中で止まってガレージに戻ることなく、連続のピットストップ57周を走り切れたから全体的には満足している」
フェルナンド・アロンソはそう語ったが、1分42秒台から走り始めて最後はソフトタイヤを履いても39秒台までしか上げられず、ライバルと比べてもそのペースは決して優れたものではなかった。
パワーユニットの制御系ソフトウェアにトラブルが頻発していたフェラーリは、まだ充分な走り込みができていない。メルセデスAMGがヘレスで、マクラーレンとウイリアムズが先週のバーレーンですでにレースシミュレーションを完了していたことを思えば、そのプログラムの遅れは否めない。フェラーリはまだ100kgの燃料で走り切るための燃費計算が不充分で、これからさらに煮詰めが必要だという。第2スティント以降のペースが伸び悩んだ理由のひとつがそれだ。
アロンソは常にレースエンジニアのアンドレア・ステラと無線で交信しながら、燃費のコントロールをし続けなければならなかった。後半は燃費セーブのためにパワーが低下し、前述の通りアロンソもこれに不満を持ったようだ。
さらにセットアップも不完全なままだ。アロンソも「マシンのポテンシャルを引き出すために、セットアップをさらに煮詰める必要がある。僕らにはまだ欠けていることがあるんだ」と認めているが、浜島エンジニアは「ウチはフロントがアンダーなんです」と言う。そのせいでタイヤの性能低下がより一層進んだ可能性もある。
「もうちょっとタレないんじゃないかと思っていたけど、意外とタレますね……」
コンパウンドが硬くなり耐摩耗性が向上したという今季型のピレリタイヤだが、ケミカルグリップの性能低下は依然として設計に盛り込まれているため、デグラデーション自体がなくなるわけではない。
「熱ダレというわけではないみたいですね、フェルナンド(・アロンソ)は熱ダレだとは言ってなかった。グニュグニュするとか言ってないから、熱ダレだけではないんでしょうね。普通にデグラデーションしていく、と言っていました」
クルマ自体が本来の性能を発揮できる状態ではない中でのレースシミュレーションだけに、今季型タイヤの傾向はまだ分からないと浜島エンジニアは言う。どのチームもマシン側の熟成が先決で、フェラーリですらパフォーマンスを追求するところにまでは達しておらず、ようやく普通に走れるようになってきたというところでしかないのだ。
「今季型タイヤの特性はまだ分かんないですね……。明日もレースシミュレーションをやりますし、明日と明後日でなんとかタイヤの特性を掴めれば、という感じです」
タイヤをチェックしメモを取った浜島エンジニアは、そう言うとコンピュータが並ぶエンジニアオフィスへと慌ただしく戻っていった。次のミーティングは夜の9時15分から。開幕前のテストは残すところ僅か2日間のみとなり、エンジニアたちも長い夜を過ごしているのだ。