「もう、笑うしかないでしょ」

 2月20日、ケータハムで2度目のドライブを終えた小林可夢偉は、何度もそう言って髪をぐしゃぐしゃとかき回した。ベストタイムは6番手、周回数は66。タイムシートだけを見れば、決して悪い結果とは思えない。
 だが、コース上でのCT05を見ていれば可夢偉の苦悩の理由はすぐに分かった。

「走れば走るほど課題が出て来る状態で、順調とはほど遠いですね……。ルノー勢の中で見ればタイム的にはそんなに悪くないように見えるかもしれませんけど、今の時点では(他メーカーのパワーユニットを積む)ライバルと戦える状態にないっていうのが実際のところなんです」

 午前中はパワーユニットのアップデートが不発で前日仕様に戻したり、テレメトリーのトラブルで11時半までロクに走ることができなかった。走行を開始してからは10周前後のランを繰り返したが、その巡航ペースは1分45〜47秒台。この日の6番手となった1分39秒台のベストタイムも、最後にソフトタイヤでアタックをして記録したものに過ぎなかった。

「エンジンパワーがマックスにはほど遠いような状態なんで、コース上で走っていると心臓が止まるかと思うくらい、焦るくらいの速度差でメルセデス勢に抜かれるんです。向こうは330km/hくらい出てるけど、ウチは270とか280km/hくらいしか出てないから。思わずハンドル切っちゃうくらい、ビックリするくらいの速度差があるんです。メチャクチャ恐いし、かなりショックですよ」

 可夢偉いわく、パワーユニットはほとんどまともに走行することができなかった前回のヘレスでの状況と変わっておらず、「変な振動がなくなっただけ」だという。

 つまり、バーレーン初日から騙し騙し走ってはいたが、本来の性能とはほど遠い500馬力程度のパワーしか出せていないのだ。エネルギー回生システムを充分に使うことができないから、MGU-K(モーター・ジェネレーター・ユニット-キネティック)に関連して新たに導入されたリヤブレーキシステムのセッティングを煮詰めることもできない。エンジントルクの制御もスムーズにできていないがために「立ち上がりはフラフラ」で、車体側の開発はおろかマシンバランスのセッティング調整すらできない。そして、ルノーのパワーユニットを100%フルに使うためには、まだまだ課題が多く残されている。
 それが、可夢偉が「ライバルと戦える状態にない」と言う理由だ。

 ルノーはヘレスでの問題は解決したとしているが、バーレーンでも主にソフトウェア面に新たな問題が発生しており、この解決に向けて努力を続けている。
「今のままじゃ、開幕戦にはGP2のクルマを持っていった方が速いですよ。トラスポンダーを外せるようにしといて、自分で持って走ってゴールしたほうがポイント獲れるかもしれへんくらい」

 可夢偉はそう言って苦笑いしながらも、全てのテストプログラムをルノーの開発データ収集を最優先に組み、状況改善のためにルノーに貢献すると前向きに考えている。

「今はホンマにパワーユニットをしっかり仕上げられるようにルノーを助けてあげるしかないんです。ルノーに貢献するという意味では(ルノー勢で)一番距離を稼げているのは良いことやと思うし、ここで良いクルマを作ってルノーを助けられれば自分の評価に繋がりますからね」

 残り6日間のテストのうち、可夢偉は3日間を担当する。外から見る以上に苦しい状況に置かれている今のケータハムだが、開幕までにどこまで巻き返すことができるのか。苦難の中だからこそ、チームリーダーとして臨む可夢偉の新しいチャレンジの価値はより一層高いものになるはずだ。

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