ターボの強大なトルクに、倍増したERSのブースト。2014年のF1マシンはリヤが暴れ、ドライバーたちがステアリングやスロットルペダルと格闘することになる。シーズンの開幕を前に、そんなイメージを抱いているファンも少なくないかもしれない。
しかし、それは現実のものとはならないだろう。
確かにヘレスの初回テストでは、コーナーの立ち上がりで唐突にホイールスピンが発生したり、リヤが暴れてカウンターで姿勢を立て直す、といったような場面も随所で見られた。それから2週間後のバーレーンに来て、果たしてF1マシンたちはコース上でどのような挙動を見せるのか。テスト3日目の午後、それを確認するためにコースサイドへと向かった。もちろん、派手なアクションを期待する気持ちも抱きながらだ。
まずは、ターン1〜3のコンプレックスへ。低速から全開で立ち上がりながら、左・右とステアリングを切っていかなければならず、マシンが不安定になりやすいセクションだ。だが、その淡い期待は完全に裏切られてしまった。
ほとんどのマシンがヘアピン状のターン1からホイールスピンもなくスムーズに立ち上がり、ステアリング修正を加えることもなくターン3へと抜けて行く。時折ウイリアムズのフェリペ・マッサやケータハムのマーカス・エリクソンがターン2のエイペックス手前でホイールスピンをさせてカウンターを当てることもあったが、マシン挙動がブレイクするほどではない。すでにレースシミュレーションに入っていたジェンソン・バトンなどは、ショートシフト気味に低回転でスムーズに立ち上がり、ライン取りもどっしりとして一切のブレがない。エステバン・グティエレスのザウバーもセルジオ・ペレスのフォース・インディアも、使っている回転域こそ異なるものの、その挙動に不安定さは全くない。
ヘアピンからの立ち上がりとなるターン8やターン10の出口でも、路面にブラックマークが残るようなホイールスピンをさせているマシンは皆無だった。
この日、レースシミュレーションを走破したバトンは語る。
「トルクが太いから、これをコントロールするのはトリッキーで難しい。それにエンジン本体以外にもいろんな音がするから、ホイールスピンを感じ取るのが難しいんだ。特に燃料が重い時にタイヤがタレ始めたのを感じ取るのはトリッキーだ。でも、そんなマシンをコントロールするのが楽しいんだ。常にそのトルクを制御するのが自分の右足にかかっているんだからね。だから僕はこのマシンも好きだよ」
トリッキーではあっても、すでにパワーユニットの側もドライバーの側も、それに対応するだけの充分に進歩を果たしている。ルノー勢はこれにまだ苦労している面もあるが、他メーカーはマッピングの熟成が進んだことでドライバビリティが向上しているのだ。
一方でヘレスでは、ブレーキ・バイ・ワイヤの導入によってブレーキングが不安定になり、限界まで攻めたブレーキングができないというドライバーが多数いた。そこで最高速が330km/hにも達するメインストレートエンドのターン1でブレーキングをチェックしてみたが、驚いたことにほとんどのマシンが100m看板のあたりかその先でブレーキングしている。昨年までと変わらないレベルのブレーキングだ。
「ヘレスでは不安定な面もありましたが、ヘレスのデータを反映させて改良したところ、もうすでに限界までプッシュしてブレーキングできるところまで調整できています。ドライバーたちからの評価も上々です」(マクラーレン、今井弘エンジニア)
はっきり言えば、通常の路面コンディションならば2014年マシンに派手な挙動を期待することは無駄だ。そのくらい、この短い期間でマシンたちは着々と進歩を見せているのだ。
「最初に乗った瞬間から不安になるような挙動ではなかったし、挙動の予想もつくし、いわゆる普通のレーシングカーだったよ。現時点では最速というわけではないのも事実だけど、これだけのベースラインがあればここから速くしていくことは充分に可能だよ」
GP2より遅いなどと揶揄されたりもしたが、すでに2014年のF1マシンは昨年のポールタイムまで2秒差というところまで追いついてきている。そして、さらにここから空力やメカニカル面の開発が進めば、昨年型を上回るのは時間の問題だ。
コースサイドに立ってF1マシンたちの走りを眺めれば、それは火を見るよりも明らかだと分かるのだ。