テストでのタイム比較は意味を成さないと言われる。ましてや、大変革を迎えた今シーズンの開幕前テストでは、各マシンの真の実力など測りようがない。だがしかし、テストプログラムの内容を推察しラップタイムの出方を比較すれば、ある程度の勢力図が見えてくることもまた確かだ。
2月22日、バーレーン合同テストの4日目はメルセデスAMGのニコ・ロズベルグが最速タイム1分33秒283で締めくくった。これは彼がレースシミュレーションを行う前の午前11時過ぎに1周計測(アウト/インラップを含めて計3周)の予選シミュレーションで記録したもの。このベストタイムには、他チームの間にも少なからず動揺が走ったようだ。
「我々から見ても、あれはずば抜けて速いですね」
そう語るのはマクラーレンの今井弘エンジニアだ。
マクラーレンも順調にテストを進めてはいるが、今のマクラーレンにあのタイムを出すのは難しそうだ。2日目にケビン・マグヌッセンが出したベストタイム1分34秒910は、同じく予選シミュレーションではあるがスーパーソフトで出したもの。その直前のソフトタイヤでは、1分35秒439だった。スーパーソフトとソフトでは、0.5〜0.7秒ほどのタイム差がある。
そしてロズベルグの1分33秒283は、ソフトタイヤで叩き出したものだったのだ。つまり、まだ伸びしろはある。それぞれの燃料搭載量が分からないとはいえ、マクラーレンがこのタイムにショックを受けたのも頷ける。
パワーユニットの熟成については、メルセデスユーザー勢はいずれも一様にまずまずのレベルに達している。メルセデスAMGとマクラーレンのペース差は空力面にあるようだと今井エンジニアは示唆する。
「新しいパワーユニットをどういうふうに使うかという意味ではどんどん進歩していますけど、空力面はもうちょっとやりたいですね、ずば抜けて速いところがいますからね(苦笑)」
つまり、合同テストを1回残した現時点では、メルセデスAMGが頭ひとつリードしているというのが現状のようだ。
ロズベルグは手放しで喜んでいる。
「“予選スタイル”の練習はすごく上手くいったし、なによりとても気持ち良く走ることができている。フィーリングもセットアップも何もかも、自分の思い通りに機能してくれている。マシンバランスも良くてグリップも感じられるし、かなりプッシュすることもできる状態だった」
3日目に100kgの燃料でレースシミュレーションを完走したマクラーレンに続いて、メルセデスAMGもこれを成功させた。ただしその一方でまだ走り込むたびに細かな問題が見つかっていることも事実だといい、ここから開幕までは「来週のテストでもメインフォーカスは信頼性の確保だ」としている。つまり、性能面でこれ以上の追求をしない可能性もある。
それ以外のメルセデスユーザー、フォース・インディアとウイリアムズも順調な仕上がりを見せており、決して侮ることができない。今井エンジニアも「メルセデスユーザーはみんな同じくらいの仕上がりだと思うので、かなり激しい戦いになると思います」と予想する。
そうなると気になるのがフェラーリだが、彼らはまだ目立ったタイムを出してきていない。しかし速さは充分にありそうだと今井エンジニアは分析している。
「三味線を弾いているわけではないんでしょうが、フェラーリは黙々とプログラムをこなすことに専念しているのであのくらいのタイムで走っています。ですがクルマの素性は良さそうなので、本気で走ったら結構速いと思いますよ」
実際、キミ・ライコネン最終日の自己ベストタイムも2日間使い込んだ中古のソフトタイヤで出したもので、ラップライムは全く追求してはいない。コース上ではブレーキングでフロントタイヤをロックさせたり、最後には縁石に乗ってクラッシュを喫したりするなど、まだパワーユニットの細かなトラブルも出ており、地道なテストに専念している。しかし、その過程を完了すればフェラーリは速さを増してきそうだ。
「まだまだやるべきことはたくさんあるし、僕らは変更に対してマシンがどう反応するかをチェックしている段階だ。抱えていたいくつかの問題を解決して、さらに新たなことを発見していっている状態だ。セッティングも大きく進歩した。そんなに悪くはないし、良いポジションにいると思うけどね」(ライコネン)
一方でルノーユーザー勢は、ヘレスでパワーユニットが問題を抱えたせいで走り込めなかったがために信頼性を確立できず、さらにマシンのセットアップも進められないという負のスパイラルに陥っている。バーレーンではようやくERS(エネルギー回生システム)をフルパワーで運用し始めたが、マシンを正常な挙動で走らせるためにはまだマッピングの調整作業が必要な段階だ。最終日に走り込んだロータスとて、実はけたたましい異音を発しながらの走行だった。
「ヘレスで我々が走った内容からすると、(ルノー勢の)先はまだかなり長いんだろうなというような気がしますね。ERSの運用だけで2秒は違うでしょう。来週のテストでフタを開けたら『うわぁ、すごいなぁ!』っていうことがあるのかも知れないでが(苦笑)、時間が限られているのでなかなかそれも考えにくいでしょうね」(今井エンジニア)
メルセデスAMGが一歩リード、その後に他のメルセデスユーザー勢が続き、フェラーリは不気味に速さを隠し持っている。ルノー勢は早期の改善は望めない。それが現時点での2014年F1の勢力図だと言えそうだ。
しかし開幕までまだ4日間のテストがあり、3週間弱の時間が残されている。その間にこの勢力図はさらに変化していくだろう。すでにラップタイムが昨年のポールタイムに肉薄してきている事実が物語る通り、この進化のスピードこそがF1であり、ここから開幕までの僅かな時間に我々はさらに凄まじい進化を目にすることになるのだろう。