ホンダがパワーユニットのサプライヤーとして、F1に復帰した2015年。前半戦を終えた現在、その成績は期待通りとは言いがたい。また苦戦そのものよりも、どこに苦しんでいるのか、何が問題なのか、あまり伝わってこないことに不安を感じる。この集中連載では『Racecar Engineering』誌のサム・コリンズ氏に、ホンダへの疑問をぶつけ、分析してもらった。

Q1:ホンダのパワーユニットは、どのようなレイアウトになっているのか

 ホンダがF1にカムバックすると初めて聞いたとき、とにかく私はうれしかった。ちょうど2012年の世界ツーリングカー選手権(WTCC)で鈴鹿を訪れていたので、そこで会ったホンダのエンジニアたちは、みんなどれほど興奮しているか、F1プロジェクトの承認をどれほど待ち望んでいたかを口々に語ったものだ。

 彼らの希望を現実のものとするために、栃木さくら研究所で膨大な作業が進められてきた。そして、ホンダF1復帰のシーズン前半戦を終えて、そうした作業の成果であるパワーユニット「RA615H」について、かなり多くのことがわかってきた。

 ホンダRA615HとマクラーレンMP4−30のパッケージは、2014年にメルセデス製パワーユニットを搭載したMP4−29Aのパッケージと多くの共通点があるように思われる。まず、どちらのエンジンもコンプレッサーがエンジン前側、排気タービンが後側にある「ペガサス」タイプのスプリット・ターボを採用している。このレイアウトは、理論的にはパッケージングとシステム全体の冷却面で利点がある一方、エンジンのVバンクの間、複雑な可変吸気システムの下に置かれるMGU−Hに関して、いくつかの技術的難題が生じる。このモーター/発電機の温度を適正に保つことが難しく、常に正しく機能させるのは容易ではないのだ。

 エキゾースト・マニフォールドのコンセプトも、昨年メルセデスのみが採用して注目を浴びたコンパクトなものが採用されている。これはV6エンジン単体での絶対的パワーは下がるものの、ターボの効率が上がるため、パワーユニット全体、つまりクルマ全体で見るとパフォーマンスが向上するというものだ。このエキゾーストは、いわゆる「サイズ・ゼロ」のコンセプトにも貢献している。

Q2:マクラーレンは、どれくらい深く関与している?

 マクラーレンのテクニカルディレクター、ティム・ゴスは「設計の初期段階から、補機類を含めたパワーユニット全体を理想的な形にまとめる機会が与えられた。結果として、クルマの設計思想と完全に一致したパワーユニットにすることができた」と語っている。

 つまり、ホンダのパワーユニットのレイアウトについて、マクラーレンは相当なインプットを行ったということだ。もちろん前年までのメルセデスへの影響力よりもはるかに大きく、フルワークスのフェラーリとメルセデスを別とすれば、どのチームよりも親密な関係のもとで開発を進めたに違いない。

Q3:なぜ、サイズ・ゼロのコンセプトを選んだのか?

「パッケージングの面で、かなり厳しいところまで攻める必要があったが、それと同時にパワーユニットから可能な限り高い性能を引き出す必要もあり、バランスを考えながら取捨選択をしていくことになった」と、ゴスは言う。

 こうして到達したコンセプトは、ユニットが発揮するパワーは最強ではないとしても、総合的なクルマのスピードで最速を目指すというものだ。2014年にメルセデスが採ったアプローチを熟知しているマクラーレンは、その考え方に従えばシャシー開発も楽になるという、大きなメリットを見抜いていたのだ。これこそ、ホンダが「メルセデス風」のパワーユニットを作った最大の理由であるのは明らかだ。メルセデスのコピーという言い方は穏当ではないかもしれないが、その強い影響下にあるのは間違いない。

 しかし、ホンダのパワーユニットには、いまだ謎も多い。メルセデスのパワーユニット「PU106B」のコンプレッサーはエンジン前方に飛び出すように配置され、これには必要に応じてコンプレッサーの容量を大きくできるというメリットがある。確認はとれていないが、ホンダRA615Hは、Vバンク内にコンプレッサーを納めているという噂があり、それが事実ならコンプレッサーの容量は限られ、エンジン本体のパワーアップには限界があるだろう。

part2では、以下の疑問について分析します。
Q4:トラブルが多発する原因は?
Q5:これからの開発計画は、どうなっている?
Q6:ずばり、現在の実力は?

翻訳:水書健司

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