ホンダがパワーユニットのサプライヤーとして、F1に復帰した2015年。前半戦を終えた現在、その成績は期待通りとは言いがたい。また苦戦そのものよりも、どこに苦しんでいるのか、何が問題なのか、あまり伝わってこないことに不安を感じる。この集中連載では『Racecar Engineering』誌のサム・コリンズ氏に、ホンダへの疑問をぶつけ、分析してもらう。
part1で分析した3つの疑問
Q1:どのようなレイアウトになっているのか
Q2:マクラーレンは、どれくらい深く関与している?
Q3:なぜ、サイズ・ゼロのコンセプトを選んだのか?
Q4:トラブルが多発する原因は?
F1復帰以来、ホンダが苦難の道を歩んでいることは、あらためて言うまでもない。それは多くの人々が予想したことでもあったが、当のホンダはここまで苦労するとは考えていなかった節がある。2014年の終わり頃、F1総責任者の新井康久氏は、マクラーレン・ホンダが開幕早々にポールポジションを争える可能性を示唆した。だが、そうした期待とは裏腹に、実際にはトラブルに悩まされ続けている。初期の車両電気システムに関連した問題、配線ハーネスの破損、コンピューターの互換性の問題、MGU-K/MGU−Hの故障、そしてマクラーレンとホンダのエンジニア同士の連携の悪さも指摘された。ある段階では、ホンダ製のユニットが正常に作動するまでの一時的措置として、マクラーレンが自社開発のMGU-KとMGU−Hを使ったこともある。最終的にFIAの公認を取得したパワーユニットのMGU−Hが、マクラーレン製なのかホンダ製なのか、現在のところ明らかにされていない。
また、チャンバー型の吸気プレナムにも問題があった。最初に設計されたカーボンファイバー製のプレナムは、クラックが入って密閉性が維持できなかったため、アルミニウム製に変更され、その状態でホモロゲーションを取得した。そして、シーズン開幕後に再びカーボン製のバージョンが投入されたものの、また同じ問題が発生してアルミニウム製のプレナムに戻された。彼らのカーボン製プレナムは、フィッティングの精度や仕上げの水準が低すぎ、F1どころかF-SAE(学生フォーミュラ)のチームにもダメ出しされそうなものだった。
マクラーレンの「サイズ・ゼロ」コンセプトによるタイトなパッケージングも、状況を厳しいものにしている。結果としてシステムが複雑化し、エラーに対するマージンも限られる。
「それが現代のF1を技術的にチャレンジングなものにしている要因のひとつだ。特にターボ・エンジンの場合、クルマをタイトにパッケージングするのは本当に難しい。たとえば、このクルマには1000度近くに達する超高温の排気タービンがあって、そのすぐ後ろには、できるだけ温度を低く保ちたいリヤダンパーが置かれている。その付近にはトーションバーやアンチロールバー、ハイドロリック・システムのコンポーネント、サーボバルブ、配線ハーネスなどもあって、すべてタービンの熱から保護する必要があるんだ」と、ティム・ゴスは今季マクラーレンの苦戦の原因の一部が、極限的なパッケージングにあることを認めている。
Q5:これからの開発計画は、どうなっている?
パワーユニットのトラブル洗い出しは、2014年シルバーストンでの初走行から始まり、現在も続いている。実際、発生する問題があまりにも多いため、いまだに真の競争力が推し量れないほどだ。トラブルによって頻繁にパワーユニットの交換を強いられれば、ホンダにとって、状況はますます厳しいものになる。走行距離を稼げないと、初期トラブルを潰していくのにも時間がかかるのだ。たとえば、パワーユニットのドライバビリティを向上するソフトウェアの微調整にも、予定よりはるかに長い時間を要した。いまもなお、本来なら冬の間に解決すべき問題が次々と見つかっている。
だが、ホンダの信頼性とペースが改善されつつあるのも確かだ。ホンダは、まだ開発トークンをふたつしか使っておらず(どの部分に使ったかは未公表)、伸びしろが残されているのは間違いない。
RA615Hがパワーの面でライバルに遅れを取っているのは明らかで、ホンダも改良に熱心に取り組んでいる。残された7つのトークンの大半は、パワーアップを目的とした燃焼室の設計変更に使われ、場合によってはMGU−Hの変更も含まれるだろう。ただ、残りの7トークンだけでは、ホンダが改良を望んでいるシステムすべてに手を加えることはできない。
「パワーを得るには、特に燃焼が重要。燃焼の改善を目指して、燃焼室の設計、バルブタイミングなどを変更するつもり。中心となるのはICE(内燃機関)ですが、より大きなパワーを発揮させるにはMGU−Kやターボチャージャーを含めたMGU−Hなどの領域にも取り組む必要がある」と、新井氏はカナダGPの記者会見で語っていた。
Q6:ずばり、現在の実力は?
ヨーロッパのライバル3メーカーと比較してみると、まずパワー面でフェラーリとメルセデスに大きく水をあけられているのは明らかで、ルノーとほぼ対等と見てもよさそうだ。信頼性に関しては、大差でホンダが最下位と言わざるをえない。ただ、それもレースごとに改善されており、いまだ信頼性に苦しむルノーとの差は縮まりつつある。
あるライバルメーカーのエンジン設計者は「ホンダを警戒する必要がある。あらゆる部分がうまく機能し始めたときには、とても強力なパワーユニットになる可能性があると思う」と語っていた。果たして今シーズンのうちに、それが現実となるのか。もう少し分析を続けよう。
part3では、以下の疑問について分析します。
Q7:ライバルたちは、どうホンダを評価しているのか
Q8:ホンダに足りないものは?
Q9:セカンド・チームは誕生するのか
Q10:ホームグランプリ、鈴鹿に期待できる?
翻訳:水書健司