ホンダがパワーユニットのサプライヤーとして、F1に復帰した2015年。前半戦を終えた現在、その成績は期待通りとは言いがたい。また苦戦そのものよりも、どこに苦しんでいるのか、何が問題なのか、あまり伝わってこないことに不安を感じる。この集中連載では『Racecar Engineering』誌のサム・コリンズ氏に、ホンダへの疑問をぶつけ、分析してもらった。最後のpart3では、4つのテーマを取り上げる。
part1で分析した3つの疑問
Q1:どのようなレイアウトになっているのか
Q2:マクラーレンは、どれくらい深く関与している?
Q3:なぜサイズ・ゼロのコンセプトを選んだのか
part2で分析した3つの疑問
Q4:トラブルが多発する原因は?
Q5:これからの開発計画は?
Q6:ずばり、現在の実力は?
Q7:ライバルたちは、どうホンダを評価しているのか
ライバルメーカー3社のホンダに対する意見は、それぞれに異なっている。メルセデスのエンジニアたちは、この日本製パワーユニットが自分たちの2014年仕様のコピーでしかなく、したがって当分の間はパフォーマンス面で優位を保てると自信を示している。また、ルノーのロブ・ホワイトの見解は「彼らが選択した手法のいくつかについて、なぜそれが良いと思ったのか理解できないところがある。私たちはルノーのユニットこそが最良のソリューションだと考えている」というものだった。フェラーリは、いまのところホンダに何の関心も持っていないようだ。
Q8:ホンダに足りないものは?
おそらく問題の根源は、最近のホンダにはトップレベルのレース用ハイブリッド・パワートレインを開発した経験がないことにある。2008年シーズンをもってF1撤退を決めたあと、彼らのレース用ハイブリッドの開発にはイギリスのザイテック社が関わっている。さらに言えば、ホンダはトップレベルのレーシングカー製作からも遠ざかっている。スーパーGTに参戦しているNSXは、基本的に共通設計のモノコックシャシーを使い、搭載されたハイブリッド・システムはザイテックとの共同開発。スーパーフォーミュラの車両もイタリアでデザインしたシャシーに同じくイギリス製のハイブリッド・システムを搭載。ゆえにモータースポーツ業界関係者の多くは、現在のホンダにはトップレベルでの経験がないに等しいと考えている。
筆者の見解を述べるとすれば、ホンダがこれほど苦戦している理由は、現代のF1を少し甘く見ていたことにある。いったんF1から手を引いたあと、ホンダはモーターレーシングの専門的知識やノウハウの多くを失い、会社としてはミドルクラスの量産車に専念した。しかし、コンペティションに参加しないことでホンダのブランドが損なわれつつあることに気づいた彼らは、唐突にレース復帰へと舵を切り、まずWTCCへ、続いてF1への参戦を表明したが、そのプロセスはあまりに性急だった。しかもF1用パワーユニットの開発と並行して、WTCC用エンジンの手直し、GT500で使う新NREエンジンの開発、さらには新型シビック・タイプRのようなターボエンジンの高性能市販車まで手がけたのは、どう考えても手を広げすぎであり、レース活動に振り向けるリソースが不足気味になっていたのではないだろうか。その結果、彼らはF1だけでなくWTCCでも成績不振に苦しみ、今季はアメリカでのインディカーやLMP2のプロジェクトも厳しい状況が続いている。
だが、すでにホンダはF1を侮っていたことに気がついた。その証拠として、イギリスの施設をスケールアップし、スタッフの拡充にも着手している。
Q9:セカンド・チームは誕生するか
現時点でホンダが力を注ぐべきは、まず来季への備えだ。F1関係者の多くは、来年ホンダが少なくとも、あと1チームにエンジンを供給すると考えているが、それがどのチームになるか予想するのは難しい。ルノーがどこかのチームを買い取るのか、あるいはF1から撤退するのかによって全体の状況が大きく変わる可能性があるからだ。ルノーによる買収の可能性が取り沙汰されているロータスは、財政的な問題を抱えてはいるものの、ホンダにとって良いパートナーになりうる。しかし、やはり最有力候補はマノーだろう。このチームは、すでにマクラーレンとつながりがあり、ホンダからのインプットも歓迎されるはずだ。
Q10:ホームグランプリ、鈴鹿に期待できる?
すでに述べたように、現時点でホンダのパワーユニットはベストな状態ではない。今シーズン中に使える残り7トークンを、どのタイミングで投入するのか。どのような状態で日本GPを迎えるのか。まだ不確定要素が多すぎる。
私は例年と同様に日本GPを取材するため、鈴鹿サーキットを訪れる。土曜日に仕事を終えて名古屋へ戻ったら、同業の仲間たちとビールを飲みながら、翌日のレースで2台のマクラーレンがフェラーリとメルセデスにどのようにチャレンジするかを話しあっているに違いない。まだ、ホンダの真の実力の一端さえ見ていないと信じているからだ。
翻訳:水書健司