すでに後半戦が始まっているところ恐縮だが、ここからが本番だ。F1ジャーナリストたちの間で、ささやかれる裏話──そこには記事にできない極秘情報から、実に些細な世間話まで、興味深い内容がつまっている。『F1速報』サイトの人気連載、トム・ハンター氏(仮名)「パドック裏話」の番外編として始まった当企画。2015年の夏もハンター氏の同僚であるジャーナリスト3名による「禁断の座談会」を開催したものの、相変わらずハンター氏は欠席。いつも都合をつけて集ってくれる出席者の身元を明かすことはできないため、最小限のプロフィールで勘弁してほしい。
A氏:美食と美女には一家言ありの情報通ジェットセッター
B氏:どんなことも裏を読んでしまう、悪気のない毒舌家
C氏:ぱっと見ラテン系、パドック滞在時間No.1を誇るネタの宝庫
──それでは、ストーブリーグの話題へ行きましょう。フェラーリはキミ・ライコネン残留を発表しました。これで一番の焦点となりそうなチームは、どこですか。
B氏:こうなると、マクラーレンかな。今季GP2王座は確実と言われているストフェル・バンドーン昇格はあるのか。その場合、チャンピオンふたりがどうなるのか。
A氏:時々「ジェンソン・バトンがチームを出たがっている説」が流れるのは、誰か追い出したい人がいるんだろうね。ロン・デニスは前からケビン・マグヌッセンを乗せたいわけだし。
C氏:バトンは2014〜2015年の2年契約を結んでいるから、本当は何も起きないはずなんだ。だから今季マネージャーは現場にあまり来ていなかった。それなのに最近、来るようになっているんだよ。そもそも昨年までバトンとバンドーンは同じマネージャーだったんだけど、最近バンドーンは別のマネージメントと契約したらしい。バトンのマネージャーは、昨年まで担当していたドライバーにシートを取られるかもしれないと相当あせっているはずだ。
A氏:バンドーンの新しいマネージャーは、ニコラス・トッドという噂がある。
B氏:それが事実なら、強力な味方をつけたね。
──ちなみにF1パドックで、GP2で勝利を挙げた松下信治選手の評判は?
B氏:マツシタ? レース2で勝ったくらいじゃ、まだまだ。
C氏:ホンダがセカンドチームを見つけられれば、将来的にF1へ行ける可能性はゼロではないだろう。来季トロロッソ・ホンダの噂もあるが、私は懐疑的だね。
B氏:ホンダを使う候補として有力視されているマルシャは、メルセデスと組むという話もある。
──来年またチームが消滅するという心配は、ないんでしょうか。
C氏:2016年からはハースが参入するから、ひとつくらい減ってもいいとバーニーは考えているかもしれないな。
A氏:ハースはアメリカ国籍だけど、ほとんどイタリアでしょ。ダラーラとフェラーリで作ってるんだから。
B氏:「アメリカのマーケットは重要だ」って定期的に出てくる話だけど、ハースが参戦しても急にF1人気が沸騰するとは思えないけどね。
A氏:どっちかっていうとターゲットはメキシコとか中南米じゃない?
C氏:ということは、ドライバーのひとりはエステバン・グティエレスで固い。ニコ・ヒュルケンベルグが候補に上がってたけど、可能性なさそうだな……。
A氏:絶対ない。資金を持ってこれるドライバーがいれば決まるし、誰もいなかったらフェラーリ関係の誰かが乗るはず。
──ヒュルケンベルグの評価は、どうなんでしょう?
B氏:悪いドライバーではないけど、めぐりあわせが悪い。
A氏:一緒に仕事をしたスタッフは、みんな高く評価しているけど。
C氏:まだF1では表彰台すらないからね。チームメイトのセルジオ・ペレスのほうが結果は上。そもそもペレスはペイドライバーだと思われているけど、実際フォース・インディアのスタッフたちは「そんなことない」と言う。F1チームはレース結果にスタッフたちの生活がかかっているわけだから「やっぱり速いドライバーがいい」と。つまり昨年末にアブダビでテストしたGP2王者のジョリオン・パーマーよりも、ペレスのほうが総合力で上なんだよ。もちろん資金を持ち込んでいないわけじゃない。でも実際のところ、数億の金でドライバーの評価が一変することはない。前半戦の成績を見ても、予選はヒュルケンベルグが強くて8勝2敗だけど、決勝ではペレスが5勝4敗で勝ち越し。ペレスはイメージ以上に速いドライバーだし、少なくともフォース・インディアは彼を評価している。
A氏:みんなが思っているよりチームに評価されているドライバーと言えば、パストール・マルドナド。
B氏:たしかにイメージほど悪くない。さすがにチーム内の評価はロマン・グロージャンのほうが上だと思うけど、グロージャンは最近「また昔の悪いクセが出ている」って評判を落としているから……。
──ロータスのチーム買収問題は?
A氏:どこかに買ってもらわないと、もう存続できない。
C氏:すでにルノーがロータスの株式の過半数を取得しているという情報もある。
B氏:あとは条件を詰める段階じゃないの。
──もしルノーがワークス参戦するなら、レッドブルのパワーユニットは?
C氏:このまま来年まではルノーを使うかもしれない。残り12トークンを使うパワーユニットが、どんな出来かで判断するんじゃないかな。
A氏:パワーユニットの基本設計は決まっているわけだし、来年メルセデスに変えるなら、いま使っているパワーユニットの写真を撮って、狙いを定めて開発してしまえばいい。急に変えるとしても「絶対に載せられない」ってことにはならないだろう。
──それではホンダのパワーユニットについて、ご意見お願いします。
B氏:ベルギーGPの新スペックで、フェラーリに追いつくと言っていたよね。
A氏:ホンダ計測によると、ハンガリーGPの時点で「ルノーに10馬力は勝っている」と。
B氏:ホンダの燃費が悪いことは確かだね。
A氏:エラーが出ると、とりあえず止めるから、なかなか走れない。マクラーレンは、それを不満に思っていて「壊れてもいいから、もっとバンバン回していこうよ」と考えているのに、ホンダ側は「壊れないように手前でセーブ」という保守的な思考。
──メルセデスと比較すると50馬力以上、劣っていると言われていますが、そもそもエンジン本体で、どうしてそこまで差が出るんでしょう?
A氏:初期開発に桁違いの予算をかけたっていうのが大きいんじゃないかな。
C氏:ホンダの話は君たちのほうが、よく知っているかもしれないけど……。彼らはトラブルについての説明が下手だったり、メディアへの対応がまずくて自分たちの印象を悪くしている。これは同僚のジャーナリストに聞いた話だけど、いま何基目のパワーユニットを使っているかを勘違いしていたり、レギュレーションを理解していなかったり。たとえばメーカーの顔として、もっとF1の世界で信頼されている人物を「アンバサダー」として起用したって、いいんじゃないか。
B氏:今季はフェラーリが規則の抜け穴を見つけて、シーズン中もパワーユニットを開発できることになったけど、来季どうなるのか。そのあたり交渉次第というところもあるから、政治力も必要。
──今シーズン中に、マクラーレン・ホンダはフェラーリに追いつけますか。
A氏:マクラーレンのシャシーにも問題があるから、厳しいかも。今季からレッドブル流の空力優先にして、セットアップに悩んでいる。
C氏:ちょっとトレンドに遅れているよね。いまや空力でもリードしているのはメルセデスなのに、ここでレッドブルに追従するとは。前傾のレーキ角もトップチームがつけなくなっているところ、マクラーレンだけ角度がついていたり。「サイズ・ゼロ」のコンセプトにしても、メルセデスはパワー重視でサイズは大きくなっているんだから、ちょっと疑問。すべてが一歩、遅れている。
B氏:ホンダのパワーユニットは、カウルの外側から見ても確かにコンパクト。
A氏:空力優先で小さくしたのに、空力がダメなら意味ないでしょ。
C氏:ここにも政治が絡んでくるんだが、今後の新サーキットが全部ツイスティなコースになれば、いまのマクラーレンには有利……とは限らないけど、「サイズ・ゼロ」のコンセプトは活きてくる。でも実際には高速のパワーサーキットが多いわけだから。
A氏:「サイズ・ゼロ」でもメルセデスと同等のパワーを想定していたわけだから、コンセプトが悪いというより、想定が甘かった。
──ホンダ復帰1年目は苦戦中ですが、ドライバーの様子は?
A氏:アロンソは「後半戦は来年に向けて動き出す」と言い続けている。もっと実戦テストに徹して、来年ちゃんと勝負できるようにしようと。あれはチームへのメッセージで、裏を返せば、まだ方針が定まっていないんだろうね。
C氏:アロンソが文句を言ったり、いろいろ要求するのは真剣な証拠。それがなくなってポジティブな発言ばかりになってくると、むしろ心配になる。
──なるほど。では、そろそろ後半戦の展望など、ちょっとだけレースの話を。
B氏:ルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグのタイトル争い、たった21点差だよ。みんな「盛り上がらないカップル」だと思っているみたいだけど、個人的にニコが好きだから、どこまで食いついてくれるか見届けたい。
C氏:まず、ドライバーアシストが制限されるベルギーGPのスタートに注目。個人的には、この変更でメルセデスが後退して、フェラーリが前に出る展開を期待したい。実はロズベルグとベッテルも、まだ21点差なんだから。
A氏:僕はグリッドガールかなあ。メキシコが楽しみだね。
──レースの話をしてもいいんですよ。そういえば、モナコGPはグリッドボーイでしたね。
A氏:そうそう、それでB氏が大興奮(笑)! スレンダーだけど、ちゃんと鍛えてる系でね。
B氏:グリッドボーイの写真をSNSに投稿したら、女性ファンの反響がすごくて(笑)。いつもボーイのほうがいいかもしれない。
A氏:せめてロシアとメキシコだけは、ガールでお願いしたい。
C氏:そういえばグリッドガールのことを、ほとんど気にしたことがないな。だいたい私はクルマしか見ていない。B氏はクルマとガール両方、A氏はガールしか見ていない。
──そんなA氏、イチ押しのグランプリは?
A氏:みんなキレイだから選べないなあ……マレーシアもいいし、ハンガリーもすごくいいし……。ワーストは、あそこだけど、それは僕だけの胸にしまっておくよ。
──なんとなく、覆面座談会にふさわしい最後となりました。後半戦も、よろしくお願いします。
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なかなか3人のスケジュールが合わなかったこともあり、なんだかんだでベルギーGPウイークまっただなかの掲載となってしまった2015年・夏の覆面座談会。きっとベルギーGPが終わってから読んでも面白いところはあるはずと信じて、お送りする次第だ。このたびも喜んでいただければ、またシーズンオフにお会いしよう。