猫の目のように変化するスパ・ウェザー。選手権のなかでも最長、7kmのコースは自然の地形を活かした起伏に富んでいて、オールージュ~レディヨンの急な上り坂はとりわけ特徴的。長いケメルストレートの後、下りの山間区間は中高速コーナーがドライバーに人気・・・ベルギーGPでは、天候とサーキット・レイアウトがもっとも話題になる。

 壮大なコースは1コーナーの“ラ・スルス"が北端、ストレートの先のレコンブ~リヴァージュが南東の端、スタヴロが南西の端に位置する――ヨーロッパの雨は西からやってくるためスタヴロあたりから降り始めることが多いが、雲行き次第ではピット周辺が最初に大雨に包まれる・・・難しいのは、広大なサーキットの一部がドライ、一部がウェットというふうに、場所によって周回によって路面状況が異なること。ピット前ストレートを通過した直後に雨が降り始めると、ドライタイヤで1周を走行する間に何十秒もロスするケースもある。スパ・ウェザーは伝統のサーキット最大の難題。青空だと思った1分後には大雨が降り始めることも……と表現しても、大げさではない。ラ・スルス、オールージュ、リヴァ―ジュ、ファーニュというコーナー名も、すべて“水"にまつわる言葉に由来する。

 路面コンディションは走行時の天候だけでなく、グランプリの週に合計どれくらい雨が降ったか、ということにも左右される――コースの起伏と水捌けの良い舗装によって、走行時の瞬間的な雨なら驚くほど乾きは速い。逆に、走行前から雨が降り続いているような年には、表面上は乾いて見える走行ラインでも内側から水分が滲みだしてドライタイヤがグリップしない場合もある。いずれにしても“正しいタイミングで正しいタイヤを履く"には運も必要なため、ドライバーには濡れた路面をドライタイヤで走行するスキルや、自然の地形のなかでもっともグリップの高いラインを選択する動物的な勘が求められる。

 ドライバーに人気の高い難コースには、レースそのもの、ドライビングそのものを楽しむ純粋なファンが集まる。自然の起伏も天候も、観戦コンディションを容易にするものではないし、アルデンヌの森のなか、標高600メートルに位置するサーキットは陽射しがないと寒く、夜には日本の冬のような気温になる。それでも、ヨーロッパ各国から雨装備でやって来るファンは、崖に貼りつくような姿勢でセッションを過ごすことも厭わず、夜には気温がひとケタ台まで落ち込んだフランコルシャンの町でベルギービールを楽しんでいる(トイレ事情が切実なせいか、観客に占める女性の割合はおそらく世界で一番低い)。

“地元率"が低いのもベルギーGPの特徴で、ベルギー人の観客は半数にも満たない――ミハエル・シューマッハーの故郷ケルペンからもっとも近いグランプリコースであることは有名だが、フランス人にとってもパリから一番近いサーキットがスパなのだ。距離はちょうど東京~鈴鹿と同じ程度。こうした地理条件と長い歴史が、ベルギーGPをヨーロッパらしいイベントにしている。

 観客の地元率は低くても、伝統のコースを支える地元の意識はとても高い。「自分が役に立てるなら」と、ボランティアで貢献する人たちはコースオフィシャルだけに限らない。みんな伝統のサーキットを誇りに思っているから、地元の評価を得るのは雨で速いドライバー。アイルトン・セナは絶対的な存在であったし、中嶋悟さんも人気が高かった。サーキット近くのバーでスパを賞賛すると「鈴鹿もいいコースだ」と話題が広がり、おじさん達に美味しい地ビールをご馳走される……「口当たりはいいけど、酔っ払わないよう気をつけなきゃいけないよ」というのが彼らの決まり文句。ベルギービールは飲みやすいが、アルコール度数が高いのだ。

 セクター1とセクター3はストレート速度が必要。下りの山間区間セクター2ではダウンフォースが重要で、チームはドラッグとダウンフォースの妥協点を見出さなくてはならない。それでも、平均時速が230km/hを超えるコースでは、空力が発達するにしたがって低ダウンフォースで走行することが可能になってきた。スパ仕様は、今ではモンツァ仕様に近づいている。

 セナの時代、ドライバーの勇気が問われる場所として知られたオールージュ~レディヨン(正確には、1コーナーからのストレートを下り切った“底"にあたるところがオールージュで、急な上り坂はレディヨンと呼ばれる)は、路面の再舗装やV10からV8への移行にともなって誰もがアクセル全開で抜ける区間となっていた。しかしダウンフォースが削減された今シーズンのF1+パワーユニットでは、以前のように微妙なアクセルワークが必要になる可能性もある――空力に優れたレッドブルにとってはフルスロットルが可能かもしれないし(ルノーは1コーナーからケメルストレートまでを全開としている)、逆に、メルセデスのパワーではマシンによってスロットルを戻すことになるかもしれない。ソフトとミディアム、タイヤのグリップが境界線を挟む可能性もある。

 パワーサーキットではメルセデスの優位性が際立つことも十分に予測される。ただし夏休み前の数戦でトラブルを経験してきたメルセデス・ワークスは、ノートラブルで戦うことを優先してコンサバティブなアプローチを採るはず――高速コースを得意とするウイリアムズにとって打倒メルセデスの機会となるのがベルギーGPであり、ウエット路面を得意とするバルテリ・ボッタスが初優勝を飾るチャンスも生まれてくる。

 全長7km――シーズン最長のコースで全開率が70%を超えるとなると、パワーユニットにはもっとも苛酷な使い方が強いられる。レース距離は“わずか"44周。1周あたり4メガジュールというバッテリーからのエネルギー放出だけでは全開区間をカバーすることができないため、4メガジュールの制限に含まれないエネルギー=MGU-HからMGU-Kに直接送られるエネルギーが重要になってくる。標高による気圧の低さも影響し、タービン/MGU-Hは今シーズン最高の速度で回り続けることになるのだ。

 夏休みを終え、全員がリフレッシュして挑むベルギーGP。清涼な空気も、森林に囲まれたスパの特徴。去年はここからセバスチャン・ベッテルの9連勝がスタートした。コースもマシンの仕様もシーズンの典型ではないものの、後半の流れが見えてくるグランプリでもある。

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