──3枚目もグリッドから、こちらのカットを選んできてもらいました。

アンバサダー後藤佑紀と学ぶSF写真道
Nikon Z8 焦点距離:110mm F:4.5 SS:1/800 ISO:100 露出モード:マニュアル

後藤:やっぱり、レース前のドライバーさんってカッコいいじゃないですか、スイッチも入っているし。私は近くから撮るよりも、メカニックさんとか監督さんと話していたりするのを遠くから撮るのが好きなんです。

小林:ちょっと長めのレンズでね。

後藤:はい。で、これは偶然ではあるんですけど、無限のロゴがいくつか見えて、メカニックさんも忙しそうに準備しているなかで、岩佐選手は集中していて……というレース前の緊張感が出ているかなと思って。いかがでしょうか?

小林:……。

後藤:あれ??

──急に先生のテンションが下がっています。

小林:まぁ写真は人それぞれ、答えもないし、いろいろな撮り方がありますから……。僕の感性で言わせてもらうと、やっぱり「欲張りすぎ」だと思う。いま、その撮影意図を聞いてしまったのもあるけど、「メカニックが作業している感じ」というのは別にしないのよね。

後藤:あぁー、確かに。

小林:たとえばクルマが見えて実際にそれを触っているなら違ってくるけど、ただ何人かがそこにいるだけの感じになってしまっているから。難しいんだよね、こういうのって撮っているときはそのときの状況が分かるから『動いているメカニックを背景に入れいてる気』になっているんだけど、写真にしてしまうとフレーム外のことは伝わらないから、『忙しそうに働いている』ようには、必ずしも見えない。言い方が悪くなってしまうけど、映り込み方としては中途半端かなと。

後藤:そう言われてみれば、写真だけを見るとそう感じます。

小林:だったらいっそ、岩佐選手の表情だけに寄っていって、その真後ろの人がフレームから外れる瞬間を狙えば、後ろもボケているし、結構いい写真になったんじゃないかと思う。だから、やっぱり欲張りすぎなんですよ。

後藤:欲が深いんですかね、私(笑)。

小林:もちろんグリッドだから、いろいろな人が動いているわけで、タイミングをはかるのはとても難しいものだよね。あとから言うのは簡単なんだけど。

──岩佐選手の表情で言うと、一瞬、カメラ目線かのように感じられるのも写真としては惹かれるポイントかなと感じました。

後藤:そうですね、私、あまりこういった感じの岩佐選手をグリッドで見かけたことがなくて。基本、誰かと話しているイメージなので、こうやってピンで撮れることが珍しいというのもあって、選んだところもありますね。先生はグリッドで写真を撮るときに、気にしていることはありますか?

小林:僕は、ドライバーがエンジニアと話しているシーンが好きなので、ピンというよりは、ふたりで話しているところを結構狙っている。

後藤:エンジニアさんがパソコン開きながら喋っているシーンとか、カッコいいですよね! それこそマシンを手前に置いて、奥にドライバーがいる、みたいな絵を撮りたいんですけど、お客さんも多いですし、なかなか撮れないんですよね……。

■番外編:意表を突く「金網にピント」写真の使い道

──今回は番外編として1枚、取り上げたいカットがありまして。僕はこれ、見た瞬間に結構衝撃的といいますか、正直、賛否両論の「否」の側だったのですが……。

後藤:えー、私はめっちゃ「賛」なんですけど!

アンバサダー後藤佑紀と学ぶSF写真道
Nikon Z9 焦点距離:180mm F:2.8 SS:1/6400 ISO:100 露出モード:マニュアル

小林:ほう。……僕は「否」で(笑)。

後藤:あちゃー!(笑)

小林:いや、でも何に使うか次第ですよ。金網にピントが合っているのは、狙いなの?

後藤:いやもう、ずっと旗を振っていらっしゃるので、旗にピントが合わなかったんです。つまり最初は金網がボケてる写真を撮ろうとしていたんです。でも、これはこれでアリだな! と思って。なんか、金網があることによって、ちょっと世界が切り離されるじゃないですか。「外側からそれを見ている」みたいな。

小林:深いねぇ。

──……確かに。いま、自分も「賛」側に傾いてきました(笑)。

小林:この写真を活かす方法っていうのはあるんですよね。これを1枚で活かす方法もあるし、たとえば組写真として活かすこともできる。芸術作品として、たとえば後藤さんが写真展をやることになったとき、これもその中に置いておいて、来た人に首を傾げさせる、とか。ただ、この現場で、オフィシャルフォトグラファーが撮る写真という意味では、使い道がないかなぁ。

──元雑誌編集者の視点からいうと、目次で使ってみたい写真ですかね。サーキットの雰囲気は伝わるし、旗の文字がボケているから、その上に目次の文字を載せちゃってもいいし。

後藤:オシャレ! 使い道があることが嬉しい〜。

小林:でもこの左側のちょっとごちゃごちゃしているところ、もうちょっと整理したかったかな。

後藤:これがなくなるとノペっとしちゃうかなって思って……また欲張りなのかもしれませんけど(笑)。

──時間がだいぶ押してしまいましたので、今回はこの辺にしましょう。次回は、今回触れられなかった他の候補カットを取り上げつつ、さらにいい人物系のカットが撮れたら持ってきていただければと思います!

後藤:はい! ありがとうございました!

★今回の教え

  • 余計なものは入れるな
  • 自分の「キメ」の形を習得せよ
  • やっぱり写真は使い方次第!
アンバサダー後藤佑紀と学ぶSF写真道
スーパーフォーミュラでカメラアシスタント兼フォトサポアンバサダーを務める後藤佑紀さんと日本レース写真家協会(JRPA)の小林稔会長

■Profile
ごとう ゆうき
2019年よりレースアンバサダーとして活躍。写真を撮られているうちに撮ることにハマり、フォトグラファーの道へ。Nikonが展開するスポーツファンのための推し活写真サービス『フォトサポ』アンバサダー。2025年からはスーパーフォーミュラの公式カメラアシスタントを務めるほか、KYOJO CUPでも公式フォトグラファーとして活動する。愛称は「きのちゃん」。愛知県出身。
https://www.kinochan.fun/

こばやし みのる
日本大学藝術学部写真学科を卒業後、二玄社CAR GRAPHIC写真部に入社。クルマおよびモータースポーツ写真を中心に撮影を続け、やがてフリーランスに。2009年より日本レース写真家協会(JRPA)会長。現在、スーパーGTおよびスーパーフォーミュラで、オフィシャルフォトグラファーを務める。1955年生まれ、神奈川県出身。
https://minoru-kobayashi.com/

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