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投稿日: 2021.08.10 13:10
更新日: 2021.08.12 09:32

『チーム山本尚貴』の秘密【前編】アスリート化が著しいレーシングドライバーとトレーナーの必要性

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スーパーフォーミュラ | 『チーム山本尚貴』の秘密【前編】アスリート化が著しいレーシングドライバーとトレーナーの必要性

 他のスポーツに比較することが難しいレーシングドライバーの首のトレーニング。その首の筋力はもちろん大事ではあるが、山本尚貴のトレーニング、筋力への考え方もまた、こだわりが強い。その背景としては、そもそものトレーニングとドライビングの関係性とともに、山本自身のドライビングスタイルにもつながっているという。

「もちろん体力がないよりはあった方がいいのですけど、体力があれば勝てるかというとそうではなくて、その体力もきちんと自分のベストなコンデション、パフォーマンスを出し切れるような持って行き方も大事だなと思っています」

「首のトレーニングをやって、本当に首の筋力が誰よりもあったとしても、そのパフォーマンスがサーキットに入って60パーセントしか引き出せなかったら、普段トレーニングやって、ガンガンに筋力があっても意味がないと思っています。サーキットに来て100パーセント、ベストなパフォーマンスを出せる引き出し方と取り組み方を、ここ最近は結構細かくやっています」

 山本のトレーニングのテーマは近年、筋力向上だけでなく、レースウイークに入ってからのアウトプットの仕方に取り組み方が変わっている。

「今のマシンはパワステがあるのでハンドルを切るのがすごく重いというわけではない。そこで腕を強化したところで、それは別にパフォーマンスアップには繋がるわけではないので、腕のトレーニングは決して効率がいいとは言えないわけです。効率を考えると、僕はあまり首が強くないというか、ヘッドレストに頭をつけられないんです。多くの選手は頭をヘッドレストに預けて、言い方的には『楽』にして走行しています。でも、僕は横だけではなく後ろもヘッドレストに預けて乗れないんですよ。ですので、基本走っているときは4G、5Gに対して首がずっと中立でどこにも寄りかかっていない状態になります。おそらく他の人よりも首が疲れるので、筋力が必要なんです」

 ヘッドレストに頭をつけられないのは、首が傾いて姿勢がずれる、または視線が変わることが嫌なためなのか?

「いえ、そうではないですね。頭をどこかに預けた時点で、グリップしているのか滑っているのかを感じられなくなるんです。それは『慣れ』とも言われるのですけど、僕はそれが苦手で、頭を預けてしまうとクルマの動きを感じる自分のセンサーがゼロになってしまうんです。横も後ろもつけられないから、もうそうなると、人よりも首を強化しないと持たない。ですので、ここ2年ぐらい、一昨年あたりからかなりステップを上げて、トレーニングでは首しかやらないぐらいのメニューでやっています」

山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)
コーナリング中でもヘッドレストに頭を預けない山本尚貴

 トレーニングの内容、筋力だけではなく、トレーニングのスケジューリングにも山本のこだわりがある。

「今、スーパーフォーミュラとスーパーGTに参戦していて、その他にも結構、開発テストもあったりするので、走行スケジュールだけで結構予定がパンパンになってしまうので、走行日以外はやっぱり休みたいですよね。でも、自分の都合で休み始めてしまうと、本当にトレーニングをやらなくなって、やらなくなった瞬間に努力する姿勢がなくなっちゃいそうで怖いんですね。ですので、自分で中島さんと山上さんに予定を入れてもらって、『この日とこの日は行く』って事前に1カ月先までのトレーニング予定を決めています」
 
 中島トレーナーからすれば、1カ月先の予定が決まっていれば、山本選手のコンディショニングも考えやすい。

「そうですね、そこはこちら側でも考えないといけないと思います。年間を通してレースの開催スケジュールはわかっているので、そこから逆算して『どこで何をやらないといけない』か、トレーニング内容もそうですけど、いろいろな検査やチェックするタイミングも計画的にやらないといけません。やはり計算して勝ちを取りに行くわけですから、その戦略というのは絶対的に必要だと思っています」

 当然、レーシングドライバーも他のスポーツのアスリートと同じく、年間、月間、そしてレースウイーク週末のルーティンが大事になる。

「そうですね。ルーティンと計画性が大切になります。ただやりたいからやるのではなくて、トレーニングも計画しないと意味がない。ただ1回やればいいと思うのではなくて、継続した上で、その成果が積み上がると思っています。そこは栄養に関しても同じです。さっき山本選手が言ったように、(マシンに)乗ったら、基本的にはもう自分との戦いになるので、フィジカル的なところ以外のメンタル面の部分で自分をどう律するかとか、我々も一緒に考えながらトレーニング内容と計画を考えています。本当にかなりきついトレーニングをやってもらっているのですが、それが全部繋がるわけではなく、フィジカル=成績じゃないと思うのですけど、その微差が最後の結果の大差になるというように僕らは考えています」

 つまり、中島トレーナーはフィジカルのサポートだけではなく、メンタル面、そしてトレーニング日以外の生活面を含めて継続的に山本を支えている、いわゆる、欧米のフィジオと同じ役割を担っているわけだが、山本にとっても常にトレーナーが帯同してくれることでメリットが多いという。

「中島トレーナーはフィジカルトレーナーさんなんですけど、いろいろ見て頂いてレースウイークも常に一緒にいます。なので、僕のいいところも知ってくれているし、逆に悪いところも知ってくれています(苦笑)。当然レースウイークを一緒に過ごしたり、プライベートでもいいこと悪いことがあれば、それを隣で把握してくれている人がいるかいないかで、やっぱり結構違いますよね」

「F1などの欧州で『フィジオ』と呼ばれる人たちと同じ役割ですよね。(2017年スーパーフォーミュラ参戦時のチームメイトでもある)ピエール・ガスリーも、彼のトレーナーさんは体のコンディショニングだけではなく、気持ちを切り替えるために『早くサーキットを出て映画を見に行くぞ』とサポートしているのを隣で見ていました。ピエールを見たから始めたわけではないですが、僕にとってひとつのいい刺激になりました」

 レースウイークに入ってからは、セッション中だけでなく走行後も時間と戦いにもなる。クルマのセットアップについてエンジニアと相談しつつ、自身の食事や体力回復、身体のケアを行ったりイベント出演、メディアのインタビューや取材に応えなければならない。その忙しいスケジュールのなかで、フィジオの存在は大きな助けになる。

「(セッション後は)エンジニアさんと話をする時間とともに、自分の身体も整えないといけない。その時間を分散させてしまうと時間がいくらあっても足りないので、同時進行でケアを受けながら夜中にエンジニアさんと電話をしたりします。その時の自分の悩みとかも、夜にケアしながら聞いてくれて、それで落ち着くというか、整理することができたりします。ですので、今は家族の次に誰と一緒にいる時間が長いかというと、間違いなく中島さんだと思います。もう……サーキットに来たら奥さんみたいな感じですね(笑)」

山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)
常に帯同している中島トレーナーとともに、スタート直前のグリッドでもさまざまなルーティン、そして必要な栄養素を摂る山本尚貴

 後編(山本が取り組む血糖値コントロールやレースウイークの計画表など)につづく


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