そんな決勝に向けてだが、GT300のみならずGT500でも、多くのチームに不安要素がある。実は午前の専有走行の後のパドックはちょっとした“お祭り”になっていたのだ。なんの祭りかというと、“エンジニアたちによる他チームのタイヤ視察祭り”だ。土屋監督を含め多くのチームのエンジニアたちが、他チームのテント内にあるタイヤ表面を観察して回っていたのだ。
それというのも、今回あまりに路面温度が低い状態となったため、各チームのタイヤがグレイニングやムービングに見舞われてしまっていたためだ。ある特定メーカーのタイヤに至っては車種を問わずグレイニングがひどく、多くのチームで「10周走れるかどうか」「明日は3ピットかな」という悲観的なコメントが飛び出しているのだ。
グレイニングは、タイヤの表面がささくれてしまう状態。タイヤに詳しいLEXUS TEAM ZENT CERUMOの浜島裕英監督に、なぜ低温時にそういった状態が起きてしまうのか解説をお願いしたのでご紹介しよう。
「GT500(のタイヤ)もそうですが、まずチューインガムを想像してください。噛んでいるときは柔らかいですよね。その噛んでいるガムを冷蔵庫に入れると、今度はカチカチになります。では、柔らかい状態のガムをどこかにこすりつけると、ベトっとくっつきますよね。でも硬い状態のものをこすりつけても、消しゴムのようになってしまう。そういう状態なんです。単純にそれだけではないですが、基本はそういうことです」
「路面温度が今日の午後のようになると、その状態は減ってきます」
浜島監督の言うとおり、午後はグレイニングに見舞われる状態のマシンは減少した。また午前のタイヤはひどい状態で午後は良好な状態になったマシンもいれば、逆に午前が良く、午後厳しくなった車両も。タイヤメーカーによっても大いに状況に差があるのだ。
この状況は、8月28~29日に行われたタイヤメーカーテストで想定されていた路気温を大きく下回っている状況が関係している。10月21日の天気予報は、予選日よりも高い気温が予想されてはいるものの、少しでも陽が陰ってしまうと一気に路面温度は下がる。
また、今回の予選で上位につけたあるチームは「ちょっとでも上がるとムービングするし、下がるとグレイニングしてしまう」と特定の気温でなければパフォーマンスが発揮できないところすらあるという。
「正直、ウエットがいいと思っちゃったくらい」とそのマシンのドライバーは苦笑いをみせている。「セーフティカーが長めに入ってくれればなんとか……」というコメントすら聞かれた。
もちろん、今日の段階でタイヤに苦しい状態だったチームも、ひょっとしたら走りきれるかもしれないし、予想以上にパフォーマンスを発揮するかもしれない。ただ多くのエンジニアが口を揃えるのは「やってみないと分からないですね(苦笑)」ということだ。
予想外の低温で、ある意味ギャンブル的な要素が含まれているスーパーGT第7戦オートポリスの決勝。GT300のタイトルに近づき最終戦もてぎを迎えるのは、いったいどのチームだろうか……。
