スクアドラ・コルセにより説明される改良点は「ダラーラ社の協力のもと、とくにエアロダイナミクスに重点を置いた設計作業に1年以上を要した」とのことで、フロントリップを3Dシェイプに改めてフロアへの導風を高め、床下のエアボリュームを増したうえで、カーボン製に改められたボンネットには新世代ランボルギーニのアイコンでもある多角形シェイプのアウトレットを設けて冷却性能を大幅に高めた。

そして抉り(えぐり)を深めたフロントバンパーコーナーの“フリック”部には大型カナードを装着。リヤ側では翼面が3D形状となったリヤウイングに加え、センタートンネル部の跳ね上げ角を強めたディフューザーを備えることで「ダウンフォースが大幅に増加したことで安定性が高められ、初代に比べてピッチに対する空力感度が低減された」(スクアドラ・コルセ)という。

さらに前述のとおりサスペンション構成にもダラーラの手が及び、前後ともにサスペンションアーム類が従来のスチール製からアルミ削り出しのものに改められ、当然アップライトも変更。リヤ側でも新ハブ、新ベアリングを採用、ドライブシャフトのジョイント方法も更新された。
「そうですね、アームはアルミの削り出しのものに変わりました。軽くしているのと、アームのデザインといいますか、取り回し自体が変わっているので、レバー比も変わって本当に全然違う足になっています。ジオメトリーの数値的にはそれほど変わってはいないのですが、前よりはマイルドなクルマになったと思います」と、新構成のサスペンションを評する勝俣エンジニア。
それゆえか、空力特性の面でも従来の“方程式”が通用しないほどの変貌を遂げているという。
「下面も全然違うし、足も全然違うし、本当にもうエンジンとハコとミッションが一緒なだけで、全然違うクルマになっています。フロアにいっぱい空気を入れて、いっぱい空気を抜くという仕様になっていますし、上面で稼ぐよりフロアで稼ぐクルマ、より空力で走るクルマになっている……と思うんですよね」と続ける勝俣エンジニア。
「なのでフロントは(車高が)ミニマムという感じでもなく、そのあたりが空力を含めて変化しているところで『エアロの出し方で調整しちゃいましょう』というところもあります。レイク角も欲しいとこは欲しいし、欲しくないとこは欲しくないし(笑)。もうコーナーごと、場所によってです」
ダウンフォース総量の数値的な明示はないものの、提供されるエアロマップで車高により「どこが強い、どこが弱い」かが分かり、車両姿勢により「こっちに何%、こっちは何%」という変化量が示される。その振り分けも以前に比べて変化しており、前後バランスの取り方が変わったという。
「なので『どっちにでもできる』という感じです。だから今、エアロバランスで言ったら、88号車と87号車(グランシード ランボルギーニ GT3)はもう全然違いますし、本当にまったく別のところにいます。それはドライバーの好みにもよるし、戦略にもよりますね」
最高速が重要な富士では、ドラッグを減らす意図で前後の車高をフラット近くに振ることもあれば、高速コーナーのコカ・コーラコーナーやトヨペット100Rコーナーを速く走るためにレイクを強める方向も採用できる。つまりライバルの出方に合わせて「どこで負けている、どこで勝負する」かの選択が狙いによって動かせる自由度が出てきた。
それは足回りの設定に関しても同様で「(登録で用意される)スプリング6種類はフロントで硬い方も行くし、柔らかいのが必要なサーキットなら柔らかい方も行くし。バリエーションのなかで幅広くは使えます」とのことだが、転舵するとタイヤ面圧を確保するべく車高変動を伴うエボサスの採用もあり、その調整幅はシビアだ。
「さっき自由度が高いとは言いましたが、その幅がメチャクチャ狭いんですけどね(笑)。ほんのちょっとのことでガラッと変わっちゃうので、つねに一定にしておいてちょっとだけズラす。もう結構シビア、めちゃくちゃシビアです」と笑う勝俣エンジニア。
「本当にピーキーというか、セットアップに対してイジるといっても本当に1mm動かすかどうか。その意味でもレーシングカーで、なんか『これ、フォーミュラじゃないのにな……』という(笑)。ハコの制約のなかでね。だから改めてダラーラってスゴいんだなと」
今季も小暮卓史/元嶋佑弥のペアで挑む88号車は「ちょっと僕らも予想できなかったですけど『俺ら鈴鹿、なんでこんなに速いの?』という(笑)」勝俣エンジニアの言葉にもあるように、変則開催となった第3戦で2位表彰台を獲得。2019年のEVO初見参時には「あまり良い印象がなかった」という2年ぶり開催の第5戦SUGOでも、87号車を含め2台とも一時は表彰台圏内を窺いながら、7位フィニッシュで連続ポイント獲得を果たした。
「小暮さんはもう“スゴい人”で『何でもいいっすよ』って(笑)。『(タイム)出してくるんで』みたいな。なので僕らも『あ、じゃあお願いしま~す』と。元嶋さんにしても小暮さんにしても引き出しが多いので、僕らはすごく助かってる部分が多くて。本当に今年はヨコハマタイヤの進化とドライバー。そこに助けられてる部分がほとんどだと思います。チームもミスなくやってくれているので、そこも大事な部分ではあるんですけどね」と勝俣エンジニア。
サクセスウエイトの影響も大きいとはいえ、鈴鹿、SUGOとダウンフォースの必要なハンドリングコースで好成績を収めたウラカンGT3“EVO”が、続くデビューの地オートポリスでどんな走りを見せてくれるか。そして来季にはさらなる“EVO”の登場も控えている。


