……カンのいい方ならお気付きだろう。方針が定まらないと言えば、公式テストでも話題となっている空力フェアリングである。形状は各メーカーがレギュレーションを睨みながら工夫を凝らしているが、アプリリアやドゥカティ、さらにホンダが採用したボックスタイプが主流となりそうだ。
が、それにしてもテストではまだいろんな形状が模索されているし、大型から小型までサイズバリエーションは多いし、装着に積極的なライダーがいれば、消極的なライダーもいる。

実際のところ空力フェアリングは、不要なウイリーを抑えてフロントの接地感を高めるというメリットがある一方で、左右あるいは右左にパッパと切り返すようなコーナーでは重さが生じる、空気抵抗が増えるなどデメリットもある。だから「間違いなくコレ!」といった正解がなく、方針も定まっていない。結局は「ライダーの選択次第」だ。
これは現代MotoGPの特徴といえる。開発が行き着くところまで行き着いているうえに、レギュレーションの縛りも厳しいから、技術的トライから得られる成果が非常にビミョーなのだ。だから、人やコースによる「合う・合わない」の範ちゅうに収まってしまう。
もうひとつ言えるのは、「これってバイクらしい話だなぁ!」ということだ。どんなに優れたエンジニアリングの賜物でも、ライダーの感覚に合わなければ却下されたり、タイムに結びつかなかったりする。逆に、多少「遅れた」テクノロジーでも、ライダーが「よし、イケる!」と確信が持てるなら、すごいパフォーマンスを見せることもある。
テストでは「ホルヘ・ロレンソが去年型のフレームを試して好感触を得た」とか「テック3のヨハン・ザルコが去年型フレームを選んだ」なんて話も聞こえてくる。エンジニアとしては常に「最新が最高」をめざしてマシン開発しているけれど、それが合うか合わないかは乗り手の感覚次第。最後はライダーが気持ちよく走れるかどうか、に尽きるのだ。
「バイクらしい話」はもうひとつある。空力フェアリングが好例となったが、常にメリットの裏にデメリットがあるということだ。ワタシはスズキ・MotoGPマシンGSX-RRの開発ライダーとしていろいろなニューパーツをテストをさせてもらっているが、必ずと言っていいほどメリットとデメリットの両面がある。
タイヤがふたつしかない分、より繊細かつ高度にバランスを取るために人間の役割が大きいから、かもしれない。ホラ、人間誰だって、表があれば裏もあるでしょう? あ、いや、ワタシに裏はないけど(汗)。
では今回のまとめ! 2回の公式テストを見ていてつくづく思う。「正解はないんだなあ」と。Aがいいと言うライダーがいればBしかないと言うライダーがいたり、AでもBでもこだわりがないライダーもいる。エンジニアリングは超高度で超精密なのに、操ってるライダーには人間らしいムラがあって、それが大きく影響する。
正解がない難解な方程式。それがMotoGPの面白さだ!
……逆に、みんなが一斉に誰かのマネして同じようになったら、それは正解が発見された証拠。シームレスミッションしかり、足出し走法しかり……。レースの歴史はマネの歴史。意外と単純なんです、ハイ。
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■青木宣篤

1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。
