90度のVアングル、37度のバルブアングル、吸気側7.0mm/排気側6.5mmのバルブリフト。先の2Xで採用されたこれらの諸元は、結果的にNR500エンジンの最終作となった3Xでも踏襲されている。
ただし、2Xでは前バンクが水平となる角度での搭載であったところを、3Xでは25度起こした形となるよう工夫され、それによりエンジン前後長を短縮。エンジン幅も2Xの360mmから320mmへと狭められて、大幅なコンパクト化が果たされた。
この3Xには軽量化のための新しいアイデアが多数盛り込まれた。別体シリンダーをやめ、アッパーケースにバレルを配し、ウェットライナー式のシリンダーを採用したことはその一例。
また、1個だけで数百gあるホルダーによるクランクシャフト支持方式をやめ、クランクケースでベアリングのアウターレースを押さえ込む形態とした。カムギアトレインにも手を入れ、各ギアのシャフトはケースで支持する方式として、従来のギアホルダーは廃止されている。
結果、3Xエンジンは単体重量54kgで仕上がった。最高出力は135PS/19,500rpmを達成。この3Xを搭載した4代目NR500(NR4)のエンジンオイル・冷却水入りの半乾燥重量は135kgで、パワーウェイトレシオ1.00を実現した。しかし、この3Xが実際のレースを戦うチャンスは訪れず、その能力が示されることなく終わってしまった。
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2輪ロードレースの最高峰に挑戦した4ストロークエンジンのNR500は、結果的に世界GPで勝利を挙げることはできず、2ストロークのNS500にその道を譲ることになる。しかし、 それでもNR500は、他社とは違う独創的なアプローチで勝利を目指した、いかにもホンダらしい価値あるマシンであることは間違いない。
そんなホンダらしい革新技術の塊ともいうべきNR500を技術的側面から迫る『ホンダNR500 パート2テクニカルレビュー編』としたレーサーズVol.55は、12月26日より公表発売中。