11月23〜25日、富士スピードウェイで行われたスーパーGT GT500クラスのマシンとDTMドイツ・ツーリングカー選手権のマシンによる夢のレース『AUTOBACS 45th Anniversary presents SUPER GT X DTM 特別交流戦』。11月23日のレース1、24日のレース2とも、今までのGT500のレースでは見られなかった白熱の展開となり、日本のみならず、dtm.comを通じたストリーミング、さらにドイツのSAT1を通じた6カ国での放送などを通じて、海外からも「非常にエキサイティングなレース」とSNS上には高い評価が広まっている。このレースの週末を通じた課題と意義を、筆者の私的観点からまとめた。ブログというと少々長いが、お付き合い頂ければ幸いだ。

■逆襲のスーパーGTと魅惑のレースを演出した富士

 まず、このレースを取材した筆者としての、個人的な感想を述べさせていただこう。2010年以来このスーパーGT GT500クラスとDTMの規定統合については、長年取材した件でもあり、今回のスーパーGT×DTM特別交流戦と、GT500クラスの3台が参戦したDTM第9戦ホッケンハイムは、非常に意義深いものだった。

 特に10月のホッケンハイムは、2017年に2台がデモランをみせたものの、初めてスーパーGTのマシンがゲスト参戦という形ながら、DTMの公式戦に参戦するという歴史的なものだった。ただ、本来GT500マシンの方が空力に優れていたとはいえ、結果はご存知のとおり“惨敗”となった。

 日曜のレース2では、雨でずぶ濡れになりながら、チェッカー後スピンターンを繰り返すDTMマシンと、喝采を送るドイツのファンの横を、隊列の最後尾で抜けていく2台のGT500マシンを見ていた。悪い言い方をすれば、完全にモブキャラ扱い。もちろんDTM側とドイツのファンは、日本車3台に歓迎の意を示してくれてはいたが、11月の特別交流戦への大きな不安が募った。『ドイツ車に蹂躙される日本車たち』を富士でも見せられるのではないかと。

 しかし、今回のスーパーGT×DTM特別交流戦では、地の利も活かしGT500勢が“やり返して”くれたことに心底安堵した。特定のチームに肩入れすることはないが、特に嬉しかったのはニック・キャシディ(LEXUS TEAM KeePer TOM’S)のレース1優勝だ。キャシディはホッケンハイムで、プラクティス開始直後にクラッシュ。1セッションをフイにした上、レース2では1周目でクラッシュ〜リタイア。まともに走ったのは予選くらいだ。「フィニッシュしたかっただけに、とても悲しい」とかなり落ち込んでいただけに、今回の優勝はひとしおだっただろう。

 そして、5車種22台が競り合うスプリントレースは、これまでまったくお目にかかったことがないスリリングなものとなった。GT500とDTMは、ツーリングカーでもありGTカーでもある。しかも中身はフォーミュラのようなもの。あのスピード域で「コツコツ当たれる」マシンのバトルは魅力抜群だ。

 今回そんなスリリングなレースが展開できた理由のひとつは、富士スピードウェイという舞台の貢献度も大きいだろう。富士は日本では最もオーバーテイクがしやすいコースのひとつ。コース幅も広く、ランオフも大きい。大クラッシュに繋がるリスクも少なく、ドライバーたちも存分にバトルを戦えたはずだ。

DTM第9戦ホッケンハイムに向けたGT500マシンとDTMマシンの集合写真
DTM第9戦ホッケンハイムに向けたGT500マシンとDTMマシンの集合写真
【ブログ】ドイツの日本車ファン集団に喜んだ雨の日曜/DTM第9戦ホッケンハイム現地ネタ(3)

スーパーGTのGT500マシンとDTMマシンが初バトルを繰り広げた2019年10月のDTMホッケンハイム
スーパーGTのGT500マシンとDTMマシンが初バトルを繰り広げた2019年10月のDTMホッケンハイム

■ワンメイクタイヤを使いこなしたGT500

 そんなスーパーGT×DTM特別交流戦だが、ホッケンハイムの際には、ハンコックのワンメイクタイヤに大きく苦戦。特にウエットではこれまでのセッティングからまったく外れたセットが要求された。

 ただホッケンハイムでも、多くのドライバーが「富士でのレースに向けてデータをしっかり持ち帰りたい」と話していたとおり、そこで得られたデータは各陣営で活かされ、各チームで独自の変更を加えられた。特に上手く対応したのは、ホッケンハイムに参戦したチームや、ふだんヨコハマやダンロップを履くチームで、それは結果にも表れている。

 当然ながらふだんのスーパーGT用タイヤのときのセッティングとは異なっていたが、それでもスーパーGT勢にメリットがあったのは、富士スピードウェイの路面グリップがホッケンハイムよりも高かったこと、そして長いストレートではもともと優位にあったGT500のパワーがメリットとなったことが大きいだろう。

 とはいえ、ハンコックのワンメイクタイヤに慣れているDTM勢は、持ち込み燃料を使っていたとはいえ、ストレートで苦しい状況だったレース1から、レース2に向けてしっかりと合わせ込んでいったDTM勢の実力もさすがと言える。ちなみにレース1終了後、DTMメーカーからは「GT500に性能調整をしてほしい」という声もあったというが、実際はその必要はあまりなかっただろう。

 今回、実際にはGT500の方に性能面で理論上の有利があったことは間違いない。ただ、2020年にはそれもなくなる。そのときこそが“ガチ”の日欧対決となる。

レース2で優勝したModulo Epson NSX-GT(ナレイン・カーティケヤン)
レース2で優勝したModulo Epson NSX-GT(ナレイン・カーティケヤン)
KeePer TOM’S LC500
セーフティカー明けのリスタート
セーフティカー明けのリスタート

■ドライバーの声はおおむね好評も、チーム側は……

 さて、2日間に渡ってレースが展開されてきたスーパーGT×DTM特別交流戦に“参戦した側”はどんな印象をもったのだろうか。日本人ドライバーに何人か話を聞くことができたが、「楽しい」という声がかなり多かった。また、山本尚貴と塚越広大以外はひとりが1レースずつを戦うかたちとなったが、「やっと分かってきて楽しくなったときに終わっちゃった。またやってみたい」という声も。

 ただ一方で、「インディスタートはちゃんと何度か練習しないと危ない」「ふだん戦わないドライバーが相手だと、どこまで行っていいのか分からなかった」「今回は規定が変わるタイミングだったからいいけど、翌年も使うクルマでこの戦いは厳しい」とさまざまな声もあった。

 とはいえおおむね高評価なものばかりではあったのだが、チーム側からは多少不満の声があったのは事実だ。今回GT500チームは全チーム参加だったが、シリーズ戦以外でのレースに経済的なメリットはほとんどなかった。高額な賞金があったり、エントリーに対するフィーが出るならば話は別だが、チームとしては実質、持ち出しの多い参戦となった。

 加えて、レース2のように車両にダメージを負ってしまうと、さらなる損失となる。複数台がダメージを受けたレクサス勢など、目前に迫ったTOYOTA GAZOO Racing FESTIVALに車輌修復はしたくとも、来季車両が変わるとなればパーツを新造するのも難しい。レース後「どうする?」と相談しているシーンも見られた。

“世界中のファンのため”のレースではあったが、参戦するメーカー、そしてチームの負担をいかに減らすのかが今後への課題だろう。

 一方で、DTM勢もタイヤバースト等もありマシンにダメージを受けてはいたが、1台をのぞき基本的にメーカー単位で参戦しているマシン。マシンの破損が基本的にチーム負担となる日本と比べると、DTM参戦チームの経済面はそこまで厳しくはないと推測される。DTMチームに帯同していた日本人スタッフによれば、日本のファンやサーキットの環境等々でDTM勢はおおむねレースとその週末を楽しんでいたという。ちなみに、DTMドライバーのなかには「日本のハイグリップタイヤを履いてレースをしてみたかった」という声もあったとか。

スーパーGT×DTM特別交流戦に出場したBMW Team RBMの集合写真
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ブノワ・トレルイエがドライブしたAudi Sport Japan RS5 DTM
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Audi Sport Team Rosbergのレネ・ラストとチームクルーたち
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