まとめ:autosport web

──レッドブル・ホンダの優勝が大きな話題となったオーストリアですが、この週末は、今年のタイヤの仕様を2018年仕様のタイヤに戻すかどうかという投票が行われました。今年のタイヤは、昨年スペイン、フランス、イギリスで使用された通常よりもトレッドの薄いタイヤです。このタイヤを機能させるのに苦労しているチーム、ドライバーも多いようですが……。

尾張:たしかにハースを見れば、予選から決勝レースに向けて競争力を落としているのがわかると思う。でもみんながうまくタイヤを使えているかといえば、実際はそうではないんだよね。

 メルセデス以外の人たちは、「今年のタイヤはメルセデス用のタイヤだ」と言うけれど、メルセデスは第6戦モナコGPで大失敗している。ハンガリーだって、ルイス・ハミルトン(メルセデス)がミディアムタイヤでマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)をオーバーテイクできたから優勝できたけれど、それ以外に作戦がなかったからダメもとだった。しかも、ミディアムに交換した2回目のピットストップはフリーピットストップだったしね。もし後方5秒以内に3番手のドライバーが走っていたら、あんなことはできなかった。ということを考えると、メルセデスが飛び抜けてタイヤをうまく使っているかといえば、そうではない。

──このトレッドの薄いタイヤは“メルセデスに適した”タイヤだと言われていますが、そうではないと?

尾張:それもジェームス・ボウルズ(メルセデスのストラテジスト)に聞いたけれど、たしかに昨年は薄いトレッドのタイヤを投入したスペイン、フランス、イギリスのうちイギリス以外はメルセデスが勝った。イギリスだってキミ・ライコネン(当時フェラーリ)にぶつけられて後方に下がったけれど、それでもハミルトンが2位まで上りつめた。

 ということは「やっぱりタイヤが合っているんじゃないの?」と聞いたら、スペインでの競争力は認めていたけれど、「フランスでは勝ったけど、もし1コーナーで(バルテリ)ボッタスとセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が接触していなかったら、勝てたかどうかわからない」と言っていた。昨年は特にフェラーリが速かったし、勝ったとしても楽勝ではなかったみたい。今のトップ3チームは一度後方に下がっても上位まで戻ってくることができるから、イギリスもそれができただけ(ハミルトンが2位)の話であって、ベッテルと戦えたかどうかはわからないと言っていたよ。

──メルセデス側にしてみれば、特別自分たちの適したタイヤではないということですか。

尾張:トレッドが薄いことによるデメリットがないのは確かだけど、「自分たちだけが得をしているとは思わないし、昨年の時点でみんなが一度このタイヤを使っているのに、どうして今年になってそういうことを言うかわからない」って。

柴田:それはマクラーレンの今井弘さん(エンジニア)もまったく同じことを言っていた。昨年の最終戦が終わった後にいきなりタイヤテストをさせられて、その頃には2019年型マシンがほとんどできあがっているから困ると言う人もいたけれど、「データ自体はすでに何カ月も前に手にしているし、それを元にクルマを作っているんですよね」と。

尾張:ボウルズが言うには、昨年はみんなが「タイヤにブリスターができる」と文句を言ったから、あの仕様のタイヤは廃止された。ピレリのマリオ・イゾラ(カーレーシング責任者)も、ブリスターができるという不満を受けたからトレッドを薄くすると言っていた。だから今年のタイヤにはブリスターできていないのに、なぜチーム側が文句を言うのかと言うのがイゾラの主張。もしブリスターができて文句を言われるなら理解できるけどね。

ただ今年のタイヤに不満を持っている人のなかには、スイートスポット(適切なタイヤの作動温度領域)が狭いことを理由にしている人もいる。要するに、もう少し使いやすいタイヤにすべきと。だから、個人的にはイゾラの見解に100%同調はしないけどね。

柴田:タイヤのことを気にしないでレースができるタイヤを、みんなが望んでいる。今はタイヤの顔色を伺いながらレースをしている状態だから。それが一番の問題だと思うな。

尾張:作っている人がそれをわかっていない。

柴田:ワンメイクだからあぐらをかいているんじゃないの?

──振り返ってみれば、ドイツで使ったウエットタイヤも、それぞれの雨量に対してどのウエットタイヤが一番適していたのかよくわからなかったですよね。2020年、そして大きくレギュレーションの変わる2021年に向けて、ドライバーの納得のいくタイヤが使えるようになることを望むばかりです。

座談会(3)に続く

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柴田久仁夫
 静岡県出身。TVディレクターとして数々のテレビ番組を手がけた後、1987年よりF1ライターに転身。現在も各国のグランプリを飛びまわり、『autosport』をはじめ様々な媒体に寄稿している。趣味はトレイルランニングとワイン。
尾張正博
 宮城県出身。1993年よりフリーランスのジャーナリストとしてF1の取材を開始。一度は現場からは離れたが、2002年から再びフリーランスの立場でF1を取材を行い、現在に至るまで毎年全レースを現地で取材している。

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