
それを見たフェルスタッペンが2~3コーナーで攻め込んできた。受ける立場のハミルトンは彼にスペースを与えようとした。ここで当たって終えるわけにはいかない……。このスタート後の“危機回避”連続プレーはチャンピオン経験者ならではのふるまいで、いったん引く勇気(と自信)を秘めたプレーだった。カルロス・サインツJr.(マクラーレン)にも抜かれ5番手から先を見据えて71周ゲームにとりくんでいくハミルトン。
23周目にハードタイヤへ、1ストップ戦略をとったチームに疑いの念を抱いたのは分かる。早めではなかったか、あと48周もつのか(?)。一方フェラーリはそのハードは“最長41ラップが限界”と信じていた(マッティア・ビノット代表)。ルクレールを2ストップ、ベッテルを1ストップに分けた根拠はそれだ。
メルセデス陣営は金曜の路面とコンディションより今日は好転し、ハードのデグラデーションがデータよりおさまっているのを把握。ハミルトン自身には猜疑心があっても新任の担当エンジニア達は冷静にカバー(これがチーム力)。ハミルトンも考え直しハードをケアしながら1分21秒台から徐々にペースを上げていく。右側フロアにフェルスタッペンとの接触で傷を負い、リヤナーバスになるのを懸命にコントロール。そして終盤に2番手ベッテルが追ってくると、60周目から1分19秒台にアップ。ここまで力を残してあったハードのエネルギーを注ぎ込み、1.766秒後方に従えトップチェッカーをくぐった。今年もまた10回目だ。

チャンピオンは決まらなくても、覇者はまるで戴冠したかのようにインフィールドで“ウイニング・ドーナツターン”をやってみせた。金曜はナチュラルスピードを、土曜にはルール・モラルを、そして日曜にはリスクマネージメントに徹したハミルトン。主催者が今年設定したインディ500マイルさながらのエレベーター舞台の表彰セレモニーに、『メキシカンF1フェスティバル』の主役は静々と現れた――。

