トロロッソというチームは、当時のF1では珍しい存在だった。それまでのF1は完全な独立チームしかなかったが、トロロッソはレッドブル・テクノロジーを介して技術的にレッドブルからさまざまなサポートを受けていた姉妹チームだったからだ。
そのチーム代表には、チームをまとめる力だけでなく、親会社の言うことを忠実に聞く子会社の社長のような寛容さが必要となる。下積み経験が長かったトストは、その部分に長けていた。

自分が育てたセバスチャン・ベッテル、ダニエル・リカルド、マックス・フェルスタッペンがレッドブルに引き抜かれても、文句は絶対に言わない。逆にレッドブルが必要ではないと判断した自チームのドライバーに対して、時には冷酷なまでに契約を解消してきたこともある。
日本で生活した経験があることから、日本人の価値観がヨーロッパと違うことをきちんと理解しており、2018年からホンダとパートナーを組む際には、チームスタッフに日本の文化を学ばせるための勉強会を開いたほどだった。

そもそも、決して大袈裟なことは言わず、コツコツと仕事に取り組むトストは、日本人以上に日本人らしいところがある。例えば、日本人は勤勉で有名だが、トストも負けていない。昨年のカナダGPでは、今後レース数が増えることに対しても、こう語っていた。
「レースが増えても私は一向に構わない。なぜなら、レース数が増えれば、それだけ多くのお金が入ってくる。家族の問題? 私には関係ない(トストは独身)。年間52週あるのだから、最大26レースは可能だ!!」
トストがここまでレースに没頭するのは、彼が単にレース好きというだけではない。1994年のサンマリノGPで事故死したローランド・ラッツェンバーガーは、若い頃に一緒にレースをしていた親友だった。その親友が亡くなったイモラは、アルファタウリのファクトリーがあるファエンツァと目と鼻の先にある。
初代チームオーナーが次々とチームを離れ、残っているオーナーもレース現場に姿を見せなくなった現在のF1で、レースを愛し、現場を大切にするチーム代表としてトストの右に出る者はいないだろう。