2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニリングディレクター。F1史上初めて同一サーキットでの連戦となった第2戦は、土曜日が大雨の予報で予選が順延されるかもしれないという、昨年の日本GPと同じ状況に。さらにはトラブルによりロマン・グロージャンがピットレーンスタートとなったが、そんな第2戦について、現場の事情を小松エンジニアがお届けします。
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2020年F1第2戦シュタイアーマルクGP
#8 ロマン・グロージャン 予選20番手(ピットレーンスタート)/決勝13位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選15番手/決勝12位
第2戦シュタイアーマルクGPは、土曜日が豪雨予報だったので、予選を日曜日に順延するか、またはFP3と予選ができない場合はフリー走行2回目(FP2)のタイムを決勝グリッドに適用するかもしれないという昨年の第17戦日本GPと同じパターンでした。
ですが、日本GPと違ったのは日曜日の朝の天気予報です。日本GPの時は台風だったので確実に土曜日は走れず、もし台風の進みが遅れた場合は日曜日の朝も走れない可能性がありました。ですから、FP2でフリー走行3回目(FP3)用のドライタイヤもすべて使ったわけです。
今回は日曜日の朝は高い確率で晴れ、仮に雨になったとしても予選ができることはほぼ確実でした。ですから鈴鹿と比べて、FP2の結果がグリッドになる可能性はとても低かったです。
またレッドブルリンクは山間にあるので天気が変わりやすいですし、台風ほどの悪天候になるわけではないので、土曜日にドライコンディションで走れる可能性がゼロとは言い切れませんでした。ですので妥協点として、FP2ではFP3用のソフトタイヤを1セットだけ使用し、計3セット(ハードタイヤかミディアムタイヤ+ソフトタイヤ×2)を使うことにしました。
こうすれば、FP3がもしドライになった場合にもソフトタイヤがまだ1セット残っていますし、FP2でソフトタイヤを2セット使って予選練習をしておけば、もしFP3がキャンセルになって日曜日の朝にドライで予選をする場合にも備えられます。FP2ではまず新品タイヤを3セット使って予選練習を行い、その後レースに向けたロングランを行いました。
土曜日は雨がひどく、最終的には予定時刻よりも46分遅れて予選が始まりましたが、予選の開催は妥当な判断だったと思います。フルウエットタイヤを履いて走れる状況でしたので、安全に走るのに問題はありませんでした。
ウエットコンディションの予選というのは、ドライに比べて想定外のことが起こり、必ずしもクルマの性能どおりの結果にはならないので、番狂わせが起こる確率が高くおもしろいと思います。
雨が降り続けるなか、セッション中にタイヤを交換するチームもあれば、交換しないチームもありました。これも結果に影響しておもしろかったと思います。チームは常に刻々と変わる路面状況とタイヤの状況を見て、ピットインしてタイヤを変えようかどうかを判断しているわけです。ですから一瞬たりとも気が抜けません。以前にも書きましたが、僕は現場のエンジニアとしてやっていて、ウエットの予選はホントに醍醐味があるので大好きです。
その予選では、Q1走行開始直前にロマン(グロージャン)のクルマに電気系統の不具合が起き、まったく走ることができませんでした。この原因を探ったところ、ハーネス自体に問題があることがわかりました。しかしこのハーネスの交換は大変大掛かりな作業なので、クルマをパルクフェルメ下において、残った時間での作業ではとてもレース開始に間に合わせるのは難しい状況でした。
レギュレーションでは、モノコックを交換する場合にはパルクフェルメのルールは適用されず、時間外でも作業を続けられます。この場合はペナルティとして、レースをピットレーンからスタートすることになります。今回のウチのケースはモノコック交換ではないものの、作業を終えるためには時間外の作業が必要であるという問題は同じでした。
しかしモノコック交換以外のケースのペナルティはレギュレーションに明記されておらず、また前例もないため、スチュワードはどのペナルティを科すかと議論していました。最終的には、今回のハーネス交換はモノコック交換と『同様である』との判断が下され、ピットレーンスタートとなりました。
ロマンが失格になるかもしれないという情報があったとのことですが、僕の知る限り『失格』という話は出ていませんでした。論点となっていたのは、どのペナルティを科すかということです。