もうひとり、スーパーフォーミュラに参戦していたガスリーを側で見続けた人物がいる。当時ガスリーの担当エンジニアを務めていた星学文氏だ。ガスリーとともに日本での苦楽をともにした星エンジニアは、F1で苦労していたガスリーの様子を見ていたため、勝利の瞬間は「ほっとした」と話した。
「レースの最後、後ろから(サインツJr.が)迫ってくるなかで、よく抑えたなと。頑張ったなと思いました。今回も『おめでとう、よくやった』とメッセージは送りましたよ。忙しそうですけどね(苦笑)」
「昨年のレッドブルに乗っていたときよりも今年のアルファタウリの方がクルマが合っている気がします。スーパーフォーミュラのときもそうでしたが、(山本)尚貴は回頭性と求めるタイプ、ピエールはリヤ(の安定感)を求めるタイプだった。レッドブルのマシン特性は(マックス)フェスルタッペン向きに見えましたし、ピエールの走らせ方には合っていないように感じていました。その点、今年はちゃんとタイヤも使えていて、レースペースも良さそうだと思っていたので、アルファタウリのマシンは合っているのだと思います」
その星エンジニアに、改めてガスリーというドライバーの長所を聞いた。

「チーム無限の15号車はピエールが乗って以降、多くの外国人ドライバーを乗せていますが、彼が一番貪欲だったと思います。なんとしてもスーパーフォーミュラでチャンピオンを獲るんだという気持ちが最初からすごく強かった。彼は調子が悪いときでもちゃんと受け止めて、次の日には切り替えができていた。気持ちの持って行き方がすごく上手だったと思います。昨年、レッドブルから左遷みたいな形になってしまったときも、きっとふてくされずに頑張ったんじゃないですかね。今回の優勝はその結果だと思います」
星エンジニアは一昨年、そして昨年のF1日本GPの鈴鹿へ足を運び、ガスリーを訪問するなど、チーム無限とガスリーの関係はまだまだ続いているようだ。

そして、2017年のスーパーフォーミュラでガスリーのチャンピオンを阻止してタイトルを獲得した石浦宏明もまた、F1イタリアGPのレースを見逃さなかったひとりだ。ガスリーの勝利に石浦はまずは「うれしい」と笑みをこぼす。実は石浦とガスリーはSNSで今でもお互いつながっている仲だという。
石浦はガスリーが勝利した翌日、自身のTwitterで「日本語のツイート分からないだろうな」と前置きしつつ、「ガスリー君、おめでとう」と祝福のメッセージを投稿していた。
今日は何だかんだ忙しくなってしまい、夜の3時間ドライブ移動中?ホテルに着くのは何時になるんだ?ゆっくりガスリー君の優勝レースを観たいのに… フォローしてくれてるけど日本語のTweet分からないだろうな笑 ガスリー君おめでとう?
— 石浦 宏明 (@Hiroaki_Ishiura) September 7, 2020
「(ガスリー君からは)まだ返事きてないですね。実はしょっちゅう僕のインスタグラムとか、Twitterの投稿に「イイね!」をしてくれるんですよ。フォローしてくれているのは知っていますが、『俺のSNS見てくれているのかよ!』と(笑)」、突っ込む石浦。
「イタリアGPのレースを見ていたときは完全に応援モードで、『あと1周あったら危なかったね。よかった、よかった』と思いながら見ました(苦笑)」と、まずはファン視点で見ていた感想を話すが、もちろん、現役ドライバーとして、トップ争いの勝負どころにも注目して見ていた。
「ラストの5周の集中力はすごかったですね。ああいう風にトップを走っているときって、どこまでブレーキを突っ込むかで状況が一瞬で変わるんですよ。その一撃をしくじったらそこで終わりですからね。あのプレッシャーのなかで維持できるのはさすがですよ」
「特にモンツァだとDRSが効くので1秒以内に入ったら、前を走っているドライバーはディフェンスは何もできないですよね。言い換えれば1秒以内に入るかどうかの戦いだと思うんです。そこでガスリーがギリギリ、サインツJr.とのギャップを1.3秒差のところで耐えたことが、あのレースのすべてだったと思います」

今シーズンは国内のカテゴリーも変則的なスケジュールが組まれ、ドライバーやチーム関係者も忙しい日々を送っている。それでもかつて一緒に戦った仲間のレースをそれぞれがいろんな思いを抱えて見ていた。
そして、山本が話すように「フィールドは違えど、負けていられない」と、ガスリーの勝利は国内のトップドライバーたちに大きな刺激を与えたことは間違いない。