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F1 ニュース

投稿日: 2021.07.11 09:13
更新日: 2021.07.11 10:05

【中野信治のF1分析/第8&9戦】輝きを見せる次世代ドライバーたち。F1での大成に必要な3年の期間

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F1 | 【中野信治のF1分析/第8&9戦】輝きを見せる次世代ドライバーたち。F1での大成に必要な3年の期間

 何よりもすごいのは、リカルドもハートが強いというか、本来だったらレーシングドライバーはメンタルスポーツなので、予選でチームメイトに大きな差を付けられると決勝に向けて本当にモチベーションが下がってしまいます。今のリカルドは半分開き直っているといいますか『予選はこのくらいだけど決勝は行くよ』みたいな感じが自分の中にできているのでしょう。

 その心境はドライバー心理として分からなくはない。現実を受け入れるということはすごく重要なことで、そのなかでもリカルドある意味オプティミスト(楽天主義)で物事を見れる人だと思うので『予選はクルマが合っていないからしょうがない』という感じで、決勝に向けて切り替えがきちんとできているのでしょうね。

 そして角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)選手ですが、このレッドブル・リンクでの2連戦では本当に気を使って走っているなということが画面を見ていても伝わってきました。昨年のFIA-F2でもこのサーキットで速さを見せていたので、レッドブルリンクは得意だと思いますが、きちんとその得意な部分を活かし、第9戦の予選ではガスリーの真後ろにつけました。1年目のドライバーとして、今乗りに乗っているガスリーとこれだけ僅差で予選ができているということは、速さに関してチーム関係者を納得させるには十分な結果だと思います。

 ただ、やはり決勝ですよね……。ピットレーン入口のホワイトラインカット2回ということでしたが、直接本人と話したわけではないので、それがなぜ起こったのかが分からないですし、普通に考えれば同じミスを2回も犯さないと思います。同じサーキットですでに1レースを戦っているわけですしね。もちろん、接触などとはまた違ったペナルティなので、やってはいけないミスではあります。

 レース中のペースはそれほど悪いわけではなかったです。ただ、やはりトータルで見るとガスリーのほうが若干ペースは良かったように見えました。レースの組み立て方も含め、いい方向には向かっているのですが、さらにもうひとつというのは自分の中にしかないと思います。

 角田選手はひとつ前の第8戦の予選でもバルテリ・ボッタス(メルセデス)への進路妨害でペナルティを科せられるなど、本当にこれでもかというくらい、今回の角田選手にはいろいろなことが起こりましたね。これだけいろいろなことが起きているのは、ひとつは周りが大きく期待しすぎていることと、もうひとつは角田選手が自分自身に期待しすぎている部分があります。

 徐々にその自信を出していけば確実に到達点まで達しますが、一気にその到達点を越えようとしているので逆に遠回りをしているイメージです。ですが、それは自分自身がコントロールするしかなく、周りは周りです。角田選手もメンタルの強さをすごく持っていますし、そのブレークスルーというのは自分の中にしか僕はないと思っているので、周りがとやかく言うことでもありません。

 すべてが本当にいいタイミングでピタッと合えば上位を走ることができる速さを持っていると思います。ただ今重要なのは、そうではないときに何ができるかということです。まだ1年目のドライバーに2年目、3年目のドライバーと同じプレッシャーを掛けてはダメだと思います。とにかく周囲の要求レベルが高すぎますよね。みんなついつい忘れていますが、角田はまだ1年目のドライバーです。

 1年目ということが通用しないくらい今のF1には若いドライバーがどんどんと出てきていますし、いいクルマにも乗っていますが、ノリスだって本当の意味ですごくいい走りを見せられるようになったのは昨年のF1参戦2年目の途中くらいからだと思います。アルファタウリのフランツ・トスト代表も角田に関するインタビューで「3年はかかる」と話しているのを聞きました。

 それは『3年もチャンスがあるのですね?』と周りはポジティブに捉えていますが、F1は実力の世界なので何が起こるか分からない。3年かかるなら1年目のどこかできちんとしたパフォーマンスを見せなきゃいけないですし、2年目には、ほかのドライバーが3年目でやるようなことをやってのけないと、そこからさらに上は望めません。マシンに乗っているとき、乗っていないときも含め、それこそ無線やインタビューの受け答え、F1のいろいろなことを自分自身でマネジメントしながら理解して戦っていくためには、本当の意味で3年掛かるということは分からなくはないです。僕もかつて同じことを言われました。

 僕はフランスのチーム(リジェ)からF1デビューをしました。なかなか厳しい状況で、そのなかで苦しんでいる僕を見て、当時のチームメイトだったオリビエ(パニス)から「シンジ、3年は掛かる。俺の経験から言ってF1の1年目なんて訳が分からなかった。2年目でちょっと分かり始めて、3年目で本来の実力が出せるよ」と言われました。そのオリビエの3年目のチームメイトが1年目の僕でした。オリビエが僕にそんなことを言ってくれたのをチラッと思い出しました。それだけF1の世界を本当の意味で理解するには時間が掛かるということです。

 最後に、5連勝を飾ったレッドブル・ホンダが次戦のイギリスGPでも好調を維持するのか、それともメルセデスが巻き返してくるのかが非常に楽しみですが、これに関してはまだ何とも言えないですね。この流れで行くとこのままレッドブル・ホンダの気もしますが、メルセデスがマシンに何らかのアップデートをしてくると分かりません。レッドブル・ホンダも細かくアップデートを施していて、それがいい方向に向かっているのだろうと思います。

 ただ、シルバーストンに関しては例年メルセデスが速いイメージがあります。昨年はタイヤを壊してしまい、70周年記念GPではフェルスタッペンが優勝しましたが、今年のイギリスGPにはピレリが新しい構造のタイヤを持ち込みます。シルバーストンはタイヤへの攻撃性が非常に高い高速コースなので、クルマに求められることが変わってきます。なので、コースの特性に合うクルマ、合わないクルマというのがレッドブルリンクからは変わります。

 そのあたりがイギリスGPではメルセデス方向に寄ることで、レッドブルリンク前のメルセデス対レッドブル・ホンダが接戦を繰り広げていたときまで戦いが戻るかもしれません。また、シルバーストンは鈴鹿サーキットとも似ているので、今年の日本GPの結果を占う意味でもイギリスGPには注目したいです。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24


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